
先日、骨髄移植手術のドナー候補に選ばれました。
最終的に私は移植手術には至らなかったのですが、この機会に骨髄提供について調べたこと、感じたことを書いていきます。
骨髄バンクとは、骨髄移植が必要な人(白血病患者など)のために、骨髄を提供してくれるドナーとのマッチングをしている事業のこと。
移植手術を行うためには患者とドナーとの白血球の型が適合していなければならないが、その確率が非常に低いので、全国規模でデータベースを作って適合者を検索できるようにしているというわけである。
私がこの骨髄バンクのドナー登録をしたのは、おそらく適合の通知が来る4年ほど前ではなかったか。
(たぶん献血ついでに登録したのだろうけど、あまりはっきり覚えていない。)
ともかく、ドナー候補に選ばれるというのはあまり何度も経験できないことだと思うので、移植までの流れや考慮すべきこと、個人的に感じたことなどを紹介していきたい。
骨髄移植までの流れ
適合の通知がくる
私の場合は、最初の連絡はショートメールで来た。
「あなたのHLA型がある患者さんと一致したので、ドナー候補者のひとりに選ばれました。」
とのことで、このメールから2~3日後に骨髄バンクから封筒が届いた。
封筒には、骨髄提供を希望するかどうかの回答用紙と問診票、そして「ドナーのためのハンドブック」という冊子が同封されている。
ハンドブックは全75ページの結構しっかりした資料で、これを読めば骨髄を提供することのイメージがなんとなくつかめるようになっている。

提供意思はすぐに決めないといけない
いざ適合の通知が来てしまうと、提供を希望する・しないを決めるのにあまり時間の猶予がない。
封筒が届いてから7日以内に返送することになっている。
「急だな」とは思うが、やはり患者の病態を考えると一刻を争う状況だろうから、こちらもあまりもたもたしていられない。
最終的にドナーとなれば、提供にあたって家族の同意書が必要になるので、候補者となった時点であらかじめ家族とはしっかりと話し合って、意見を共有しておくべきだろう。
独身の私の場合、両親に報告したのだが、
「大変なことだけど人の命のためだもんね」
と快く承諾してくれた。
骨髄提供のスケジュール
提供希望の意思を表明したからといって、必ずしもドナーになるとは限らない。
健康状態等の事情次第では移植手術に適さないと判断され、別の候補者からドナーが選ばれる場合もある。
(私は提供を希望したものの、結局は過去の病気によりドナーに選ばれなかった。)
もしドナーに選ばれた場合は、このあとコーディネーターさんとの連絡調整を受けながら、生活圏の病院で採血などの詳細な検査を実施することになる。

おおむねこんな感じのスケジュールである。
適合の通知があってからすべてが終わるまで、およそ4か月といったところだ。
移植手術にはリスクがある
ドナーにも命の危険が伴う
実際に骨髄提供を行うとなれば、ドナーの体には大きな負担がかかる。
提供の方法として「骨髄採取」、「抹消血幹細胞採取」の2通りがあり、これらは本人や患者の希望により決定されるが、どちらをとっても事故のリスクはゼロではない。
発生確率としては極めて小さいものの、現実に死亡事例も起きている。
死亡には至らなくても、術後ドナーになんらかの健康被害が生じる可能性もある。
ドナーとなるときは、こうしたリスクについてしっかり認識し、納得したうえで提供を希望しなければならない。
持病は必ず事前に申告しておく
自分に何らかの持病がある場合は、そのことを必ず事前に申告しておく必要がある。
たとえば意識を失うような発作をもつ人は、全身麻酔をつかう骨髄採取において命に関わる事故のリスクが格段に高くなる。
私がドナーに選定されなかった理由は、まさに過去の病気と全身麻酔との相性があまりよろしくなかったからだった。
もし最終同意まで行ってしまうと、
「やっぱり手術が怖いからやめておこうかな…」
ということは許されないので、不安要素は前もってすべて相談しておくといい。
ドナーの費用負担は基本的にない
医療費の負担はゼロ
骨髄提供のために実施する医療であれば、基本的にドナーが金銭的負担をすることはない。
ちなみに費用は全額、患者の健康保険から支払われるとのこと。
ただし、骨髄バンクの指定した以外に自己判断で健康診断を受けた場合の費用や、職場の手続きで必要な診断書の発行費用なんかは自己負担となるので要注意である。
交通費と支度金が支給される
コーディネーターとの面談や各種検査、骨髄提供などで病院に通った分の交通費については、後日実費で支払われる。
また、入院の際には支度金として、5000円の支給がある。
骨髄提供にともなう入院期間はだいたい3~4日程度。
病衣を借りたりテレビカードを買ったり、快適な入院生活に最低限必要な準備はここから捻出してください、ということらしい。

休業補償はない
入院するとなれば当然その間は仕事を休まざるを得ないが、残念ながら骨髄バンクから休業期間中の収入を補償する制度はない。
「ドナーの費用負担はない」とはいえど、少なくとも数日間の有休消化が必須となる以上は、間接的に費用的な負担を負っているともいえる。
特に自営業者であれば、通院・入院の期間は業務が停止するわけなので、そこに対する支援がないとなかなかドナーの希望もしにくいところがあるのではないだろうか。
自治体によってはドナーとなった人への助成制度を実施しているところもあるようなので、是非とも活用したいところだ。
ドナー候補となってみて感じたこと
提供の意思決定はかなり自由
骨髄バンクからの通知を受けてまず感じたのは、
「骨髄提供の意向を確認する姿勢がすごくフェアだなあ」
ということである。
つまり、ドナー候補者本人の自由な意思を尊重してくれる。
決して「困っている患者のためにあなたの善意が必要です」とか、「どうしても嫌なら辞退することも可能です」とか、意図の偏った文言は出てこない。
また、その患者に対して自分のほかに何人のドナー候補者が選定されているかもヒミツである。
もし候補者が自分一人だけだなんて知ってしまったら、本当はやりたくなくても辞退しにくいですもんね。
あくまで、提供を希望しますか? 希望しませんか? というシンプルな選択。
だからこそ自分でしっかり悩んで、責任をもって決めないといけないのである。
ドナー側にはメリットはない
ドナーを引き受けたからといって、別に謝礼が出るわけではない。
(支度金としてわずかな支給はあるけれども)
また、プライバシー保護のために患者や関係者との交流はできないこととされているので、
「あなたのおかげで命が救われました!」
なんて泣いて感謝されるようなことはないし、まして移植を受けた相手がその後幸せな人生を歩めているかどうかすらドナーは知ることはできないのだ。
こう言ってしまってはなんだけれども、ドナーには特になにも「いいこと」はないのに、リスクだけはしっかりと背負うことになるのである。
私は正直なところ、
「んー、割りに合わないな…」
ともちょっぴり思ってしまったのだった。
それでも提供を希望することにした
「メリットがない」と頭では考えてしまいながらも、それでも提供を希望することに迷いはなかった。
その理由についてはうまく説明できないけれど、
「適合の通知が自分に来た以上は、これを受けるのが自分の役割かな」
と、なにか使命感のようなものを感じていたのだと思う。
加えて、あわよくば「自分は誰かの役に立てたんだ!」という満足感を得たい、などといったケチ臭いことも正直なところ考えていた。
(役に立つといっても自分の能力ではなく、HLA型がたまたま適合しただけなんですけどね。)

「コーディネート終了」の通知が届いたのは、提供へ協力する旨の返事をしてから2週間ほどのことだった。
たぶん自分のほかにもっと移植手術に適したドナー候補者がいたのだろう。
これもあまり言いたくないことだが、今回ドナーに選ばれなかったことがわかった瞬間は、正直ちょっと安心してしまった自分もいた。
提供を希望しておきながら、手術への不安はやっぱりどこかあったのである。
そのうえで、
「提供の希望はしたんだから、自分がやれることはやった!」
という謎のすがすがしさすらあった。
くしくもドナー候補者となったことがきっかけで、こうした自分の「小者っぷり」というか、あまり自覚したくない部分に目を向ける機会を得たのだった。
以上、胸を張ってできる経験談ではないが、ありのまま自分なりに感じたことである。
もし今後もう一度ドナー候補となることがあったら、やっぱり今度も迷わず提供を希望すると思う。
最後に、今回私が力になれなかった「ある患者さん」の移植治療がうまくいくことをお祈りして、体験レポートを終わります。
□適合の通知が来てから希望を回答するまで、あまり時間はない
・この時点で家族との話し合いをしておくことが大事
□提供にはリスクを伴う
・持病等があれば早い段階で申告しておく
□ドナーは基本的に医療費を負担する必要はない
・そのほか交通費と支度金が支給される
・休業中の補償手当はない
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