iPS細胞ってどんなもの?幹細胞と再生医療を考える

科学・理論
ラビまる
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少し前にiPS細胞の発見による日本人のノーベル賞受賞が話題となり、「再生医療」が一般に注目されるようになりました。
あれってそもそもどういう発見だったんでしょうか。


日本の医学者・山中伸弥氏がノーベル生理学・医学賞を受賞したのは2012年のこと。

彼が開発したiPS細胞は、医療の分野において画期的な大発見だった。

その後押しもあって、近年ではいわゆる「再生医療」のテクノロジーが注目を浴びてきている。

日本人研究者の活躍により医療が進歩したのは誇らしい限りであるが、そもそもiPS細胞ってどんんなモノなのか?そして再生医療ってなんなのか?

筆者のような文系出身者には、なかなか馴染みの少ない世界である。

少しずつ、そのあらましを理解していきましょう。

再生医療ってなんだろう

再生医療とは、正常な機能を失ってしまった臓器や組織を文字どおり「再生」させることにより、根本から病気を治してしまおうという医療のあり方である。

たとえば、糖尿病の原因のひとつとして、膵臓のとある細胞の機能不全により、血糖値を下げてくれるホルモン「インスリン」の分泌量が少なくなっているという問題がある。

そこで従来の治療では、定期的にインスリンを注射することで対処するわけだ。
(いわゆる「対症療法」というやつ。)

一方、再生医療の立場ではもっと根本的な原因にアプローチして、機能不全に陥っている膵臓の細胞そのものを正常な細胞にとって替えることで治療を目指すのである。

腎臓の病気なら腎細胞を、脳の病気なら脳神経細胞を新品に取り替える。

イメージとしては、トカゲの尻尾が切ったあとからニョキニョキと生えてくるような感じ。

私たち人間も、調子の悪い臓器や組織に見切りをつけ、新しい臓器や組織をニョキニョキ生やせたら、正常な健康体を維持できるよね、という考え方だ。

これを実現してくれる可能性をもつのが、「幹細胞」とよばれる細胞である。

なんにでもなれる「幹細胞」

私たちの人体は途方もない数の細胞の集まりでできているが、考えてみれば最初の最初はたった1コの受精卵だった。

これが細胞分裂を繰り返す中で、その一部は脳になる細胞たち、一部は筋肉や骨になる細胞たち、というように、どんどん役割が枝分かれしていったのである。(=「分化」

いま私たちの皮膚や髪や臓器として働いている細胞たちは、分化によって運命が決定してしまった、系譜の末端の細胞だといえる。

「幹細胞」というのは、これに対して、運命がまだ決まりきっていない未分化の細胞のこと。

枝分かれする前の「樹の幹(みき)」のような細胞だから、「幹細胞」である。

体に調子の悪い臓器があれば、幹細胞をその臓器に分化させてしまうことで、正常な機能を取り戻すことができる。

再生医療の技術は、いかにこの幹細胞を自由自在に使いこなせるかにかかっているというわけだ。

幹細胞の種類

幹細胞は大きく「多分化能幹細胞」「多能性幹細胞」とに分類できる。

何が違うか、順番に見ていこう。

多分化能幹細胞

多分化能幹細胞とは、限られた範囲の中で、多様に分化できる細胞のこと。

私たちの体の中にもともと備わっている幹細胞(体性幹細胞)はコレにあたる。

新陳代謝(しんちんたいしゃ)というように、日々髪が伸びたり、皮膚が剥がれては新しくなっていくのは、体性幹細胞が都度それらに分化しているおかげである。

体性幹細胞の具体例を見ていくと、

  • 造血幹細胞
    ⇒ 赤血球や白血球に分化できる
  • 間葉系幹細胞
    ⇒ 筋細胞、脂肪細胞、骨芽細胞などに分化できる
  • 腸管上皮幹細胞
    ⇒ 大腸や小腸をつくる細胞に分化できる

など。

このように体性幹細胞にはタイプがいろいろ存在していて、それぞれが得意とするレパートリーの中でのみ分化することができる。

例えるなら、多分化能幹細胞とは「自分の専門分野がある程度定まってしまった大学生」みたいなもので、

「将来は弁護士か司法書士になりたいな。今から薬剤師っていうのはちょっとムリかなあ」

と法学部生が言っているような感じだろうか。

多能性幹細胞

一方で「多能性幹細胞」は、人体を構成するすべての細胞に分化できるとされている。

このことは再生医療の観点から非常に重要で、いわば「どんな不調も治してしまう万能薬」のような存在といえる。

「そんなスゴイ細胞が本当に存在するのか」

と思ってしまうが、山中伸弥氏のiPS細胞がまさにそうだった。

iPS細胞とはつまり、すでに分化してしまった細胞に遺伝子操作を加えることにより、何にでも分化できる万能性をもった状態へと若返らせた人工細胞なのである。

多分化性幹細胞が大学生なら、この多能性幹細胞は小学生といったところか。

これから弁護士でも薬剤師でもYouTuberでも何にでもなれる、可能性無限大な細胞というわけだ。

なお、iPS細胞が発見される前は、ES細胞という多能性細胞が知られていた。

ES細胞は、ヒトの受精卵を加工することで作り出す人工細胞のこと。

「1つの生命を人工細胞のために潰してしまっていいのか!」

という倫理上の問題があったり、他人由来の細胞を治療に使った際に起きる拒絶反応のリスクがあったりと、ES細胞にはいろいろと課題があった。

そうした問題点を一気にクリアした点も、iPS細胞発見の功績だろう。

幹細胞と再生医療まとめ

現代の再生医療は、いわゆる多分化能幹細胞である体性幹細胞の利用が主流だ。

代表的な例は白血病等患者への骨髄移植

これは前述の「造血幹細胞」を移植するための治療法だが、HLA型という細胞のタイプがドナーと一致していないと実現できないなど、高いハードルがある。

しかし未来の再生医療では、研究がもっと進み、多能性幹細胞を活用した治療の道がさらに広がっているかもしれない。

世紀の大発見であったiPS細胞も、実際に臨床場面に登用するためにはまだまだ安全性の保証やコスト面などでの課題が多いが、その打開に向けて今日も若き研究者たちが探求を続けている。

再生医療の話題が再びメディアを大いに賑わす日も遠くないように思う。

再生医療は、幹細胞の働きにより臓器や組織を根本から再生させる技術のこと
幹細胞はその分化能によって「多分化性幹細胞」と「多能性幹細胞」に分類できる。
・多分化性幹細胞:範囲が限定的だが多様な分化 ⇒ 体性幹細胞
・多能性幹細胞:人体のあらゆる器官に分化 ⇒ iPS細胞、ES細胞

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