自分の判断や行動を無意識のうちに誰かにコントロールされているとしたら、なんだか気味が悪いですね。
しかし「プライミング効果」と呼ばれる心の作用について考えると、それも案外身近に起きていることかもしれない、と思えてきます。
私たちは毎日たくさんの意思決定をしている。
それは別にビジネスシーンに限ったことではない。
たとえば、あなたが動物園に行った場面を想像してみよう。
「最初はパンダかな。やっぱり人気の動物は並んででも見たいよね」
「その次はリスとかモルモットとか、かわいい小動物とふれあいたい!」
などと、これもまた意思決定のオンパレードである。
この記事で紹介する「プライミング効果」は、そんな私たちの日常的な意思決定の数々にも深く関係している。
さて突然だが、次の 「〇」に当てはまる1文字が何になるか考えてみてほしい。
パッと答えが思い浮かんだら、本文の続きへどうぞ。
プライミング効果を解説する中で、穴埋めクイズの答えについても考えていきます。
プライミング効果とは何か
効果の定義
プライミング効果とは、次のような作用のことをいう。
もっと平たくいえば、
「あらかじめ見聞きした情報が、そのあとの判断に影響を与える」
ということだ。
たとえば、こんな実験を行うとする。
被験者に適当な文字列を次々と見せていって、それぞれ「存在する言葉」か「存在しない言葉」かを判断して「あり」or「なし」で答えていってもらう、というもの。
ある時点で「めろん」という文字列が表示された。
ここで、事前に「いちご」とか「みかん」のような、似たような意味を持つ文字列をすでに処理していた被験者は、そうでない被験者と比べて「めろん」に対する反応速度が明らかに早くなることが知られている。
このとき、その反応速度の上昇について「プライミング効果が作用した」といえるわけである。
穴埋めクイズとプライミング
ところで、先ほど「う〇ぎ」という穴埋めクイズを示した。
「うなぎ」、「うわぎ」などいろいろと解答例はあるが、この記事においてはおそらく、「うさぎ」とした人が多いのではないかと想像する。
というのも、クイズの前に「動物園」だの「モルモット」だの「小動物」だのと、なんとなく「うさぎ」への連想につながるようなキーワードを(不自然なほどに)盛り込んでいたからだ。
さらに遡って、記事の冒頭で吹き出し付きになっているアイコンは、うさぎをモチーフとしてたキャラクターだった。
これらはまさにプライミング効果を意識していて、事前の「うさぎにまつわるアレコレ」がいわば暗示となって、後の穴埋めクイズにおいても「うさぎ」という反応を促進させるのである。
もし事前に提示する情報を「海」「魚」「かば焼き」などに変えたならば、今度は「うなぎ」を答える人が増えるはずだ。
(あくまで、ニュートラルに出題したときと比べて「そう答える傾向が高くなる」ということ。)
影響を受けた事実に気づかない
プライミング効果というのは、事前に受けた情報を特に気にしていなくても、無意識的にその影響を受けてしまう点に特徴がある。
「う〇ぎ」を見てから答えが浮かぶまでの時間はほとんど一瞬で、
「ああ、直前に動物を思い描いていたから、今回も動物が思いつきやすいな」
などと意識する間もなく、自然と「うさぎ」と答えている。
私たちはいつも「自由な発想」をしているつもりでいるが、実は意識の外でいろいろな影響を受けているかもしれない。
たとえばマジシャンやちょっと怪しい超能力者なんかは、プライミング効果を意図的に利用することで相手の選択を誘導するようなテクニックを使うこともある。
「“好き”なカードを“ココロ”の中に強く念じてください。」
といって胸に手を当てる仕草をすると、相手はハートを選びやすくなるとかね。
プライミング効果の類型
意味的プライミング
穴埋めクイズの例でみたように、先行する刺激(=「プライマー」)と後続する刺激(=「ターゲット」)の「意味」が近しい場合に生じるものを「意味的プライミング」という。
「モルモット」と「うさぎ」は別の概念を意味する言葉ではあるものの、どちらも丸くてふわふわした小動物ということで似たイメージをもっており、この属性の類似性がプライミング効果を生んでいる。
意味的プライミングは、たとえば同音異義語の認識なんかにも見られそうだ。
まずプライマーとして、病院や医療に関連した意味をもつ言葉や写真を提示する。
続いてターゲットの提示。
「ちゅうしゃ」と漢字で書いてみてください。
あるいは、「いし」と漢字で書いてみてください。
こうすると、きっと「駐車」ではなく「注射」と書く人が多くなり、「石」や「意思」ではなく「医師」と書く人が多くなるだろう。
音韻的プライミング
一方で、「音の響き」が近しいことから生じるものを「音韻的プライミング」という。
誰もが子どものころにブームを経験したであろう、いわゆる「10回クイズ」を思い出してほしい。
A「シャンデリアって10回言って!」
B「シャンデリアシャンデリアシャンデリアシャンデリア…」
A「じゃあ毒リンゴを食べて死んでしまったのは?」
B「シンデレラ!」
A「ブー!白雪姫でした~」
でおなじみのアレである。
たしかに「白雪姫」と「シンデレラ」はどちらも童話のお姫様だから、言葉の意味としても近いところはあるのだが、それだけではなかなか誤答にまでは至らない。
ここでは、「シャンデリア」という音の響きがプライマーとなって、音韻的に類似する「シンデレラ」の想起を強烈に促進しているのである。
あの頃の私たちは、無邪気な顔をして結構アカデミックな遊びをしていたんですね。
意思決定も行動も影響を受ける
身近なところにプライマーがいっぱい
プライミング効果が及ぶ範囲というのはなかなか広くて、反応速度や発想だけでなく、私たちの意思や行動さえも影響をうけてしまうことが知られている。
「〇〇したい気分」といったその時の感情も、またなんとなく腕を組んでいるその行動も、もしかするとプライミング効果によって誘発されたものかもしれない。
たとえば、夕方になるとテレビで食品に関するCMがやたらと多くなる。
「そろそろ夕食の時間か。今はカレーライスのクチなんだよなあ」
などといってスーパーにカレールーを買いに行くのだが、実は数分前にテレビでカレーのCMを横目で見ていたために気分が誘導されていた、なんてこともある。
プライミング効果は無意識に作用するから、CMを見たことなんて覚えてすらいなかったりする。
ほかにも、電車に乗れば吊り広告が下がっている。
野球を見れば選手にユニフォーム広告がついている。
考えてみると社会は「プライマー」であふれているのだ。
誘導に振り回されないためには
「いつもいらないモノをついつい買っちゃうんだよな」
「その場のノリで行動しちゃう気分屋なんだよな」
という人は、プライミング効果の作用を受けやすい体質なのかもしれない。
もし振り回されない自分を目指すのなら、
「プライミング効果っていう強烈な現象があるんだ!」
とまずは認識すること。
そのうえで、一歩立ち止まって冷静に自分のを見つめる時間をとることが重要となるだろう。
「う〇ぎ」の穴埋めクイズだって、少し考えれば「うさぎ」以外の答えも見えてくる。
「シャンデリア」の10回クイズも、即答しないで冷静になれば、ちゃんと「白雪姫」と答えられますね。
さて、あなたがさっきAmazonでカゴに入れたその商品、試しに購入ボタンを押すのを来週まで待ってみてはどうだろうか。
□ 「プライミング効果」とは、あらかじめ見聞きした情報がそのあとの判断に影響を与えること
・意味的プライミング(穴埋めクイズ、同音異義語などの例)
・音韻的プライミング(10回クイズなどの例)
□テレビCMなど、プライミング効果は日常の意思決定に深く関わっている
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