私たちは気温や水温の話をするとき、当たり前のように「度」という単位を使います。
「今日は30度超えの暑さらしいよ」とか。
記号では「℃」を用いますね。
これは「摂氏(せっし)温度」と呼ばれる温度の目盛りの種類ことを指しています。
じゃあほかにどんな温度の測り方があるのかというと、最も有名なのは「華氏(かし)温度」。
アメリカで単に「〇〇度(〇〇 degrees)」と言った場合には、こちらの目盛りのことを意味します。
まぎらわしいことに、摂氏と華氏では「0度」の基準点も違えば、「1度」あたりの幅も違うのです。

たとえば摂氏40度のお風呂はちょうどいい湯加減ですが、華氏40度のお風呂は摂氏に換算するとおよそ5度の冷水。
これを間違えると風邪をひいてしまいますね。
「〇〇度(〇〇 degrees)」という温度の表し方は一意なものではなくて、それを使う文化背景によって具体的な意味が違ってくるということです。
ちなみに現在、アメリカやジャマイカを除いた世界のほとんどの国々では摂氏温度の方を採用して日常的に使っています。
すっかり摂氏文化に慣れ親しんだ人間からすると、
「いや華氏ってなんだよ」
と、ぼんやり意味不明な単位とだけ捉えがちかもしれません。
この記事では、
- 摂氏温度と華氏温度の違いと変換式
- 華氏温度は何を基準にしているのか
- 華氏温度を使うメリットとは
についてまとめています。

たしかに温度の「1度」って目に見えないし、これ意外と抽象的な単位だったんですね。
摂氏と華氏の基本的なこと
まずは摂氏温度と華氏温度がそれぞれどんなものか、概要を簡単に見ていきましょう。
「摂氏」「華氏」といった呼び名はいわば日本流の通称で、
℃ :セルシウス度(degree Celsius)
℉ :ファーレンハイト度(degree Fahrenheit)
というのが正式名称です。
これらはいずれも、その温度の目盛りを提唱した学者の名前からきています。
摂氏(セルシウス度)
摂氏(せっし)はスウェーデンの天文学者アンデルス・セルシウス(1701-1744)が提唱した概念です。
彼の名前を中国語表記に翻訳すると「摂爾修斯」。
「摂爾修斯(セルシウス)氏による温度」というのをギュッとして「摂氏度」となり、その呼び名が日本にも伝わりました。
ちなみに摂氏温度を表す記号「℃」の「C」の部分も、「Celsius(セルシウス)」の頭文字からきています。
広く知られているとおり、摂氏の基準となっているのは「水の凝固点」と「水の沸点」です。
- 水の凝固点(水が氷になる=液体から個体になる温度)… 0℃
- 水の沸点(水が沸騰する=液体から気体になる温度)… 100℃
つまり水の状態変化をもとに「0℃」と「100℃」をまず決めて、その間の100分の1にあたる幅を「1度」に設定したわけですね。
幅が決まってしまえば、0℃~100℃以外の区間の温度についても、同じ間隔で増減させていけばOK。
摂氏温度を使い慣れた日本人からすると大変分かりやすい理屈です。
なお水の状態変化が起きるポイントは一定ではなく、気圧の大小によって変動してしまいます。
高い山に登ると気圧が下がるので低い温度で水が沸騰することは有名ですね。
ということで温度の基準においては、1気圧(=海面上の気圧の標準値)における「水の凝固点」「水の沸点」のことを指していると理解しましょう。
要は、私たちが普通に暮らしている環境を条件としているということです。
華氏(ファーレハイト度)
一方の華氏(かし)は、ドイツの物理学者ガブリエル・ファーレンハイト(1686-1736)によって生み出されました。
なんだかめちゃめちゃカッコイイ名前ですね。
中国語表記では「華倫海特」となるので、例によって「華氏度」となり日本に伝わりました。
記号の「℉」は「Fahrenheit」の頭文字からきています。
華氏の基準についてはご存じない方も多いかと思うのですが、次のとおりとなっています。
- 水の凝固点(水が氷になる=液体から個体になる温度)… 32℉
- 水の沸点(水が沸騰する=液体から気体になる温度)… 212℉
基準点の数字が中途半端すぎてなんだか気持ち悪く感じてしまいますが、これが華氏の基本です。
そして両者の間には180 度(212 - 32)の開きがあるわけなので、この180分の1にあたる幅が「1度」となります。
華氏の運用イメージが湧きやすいように例を挙げると、
- 家庭用冷蔵庫の温度は -0.4℉( -18℃ )
- 「夏日」とされる気温は 77℉( 25℃ )
- お風呂の温度は 104℉( 40℃ )
と、こんな具合。
ディストピア小説として有名なレイ・ブラッドベリの『華氏451度(Fahrenheit 451)』は、摂氏233度に相当します。
ちなみにこれは、紙が自然発火する温度が由来となっています。


摂氏と華氏を計算で変換するには
摂氏と華氏の関係性においてややこしいのは、1度の幅(変化量)が両者で異なっている点です。
水の凝固点と沸点の間を、摂氏では100等分し、華氏では180等分するからですね。
つまり華氏の温度が「1℉上昇する」というのは、摂氏に換算すると「1.8℃上昇する」ことと同義になります。
このような定義の違いをふまえた変換式がこちら。
【 ℉ 】 =【 ℃ 】× 1.8 + 32
【 ℃ 】 =(【 ℉ 】 - 32 )÷ 1.8
=(【 ℉ 】 - 32 )× 5 ÷ 9
たとえば華氏95度であれば、相当する摂氏温度は、
95から32を引いて63 → 63に5をかけて315 → 315を9で割って摂氏35度
といった感じで求まります。
ただ暗算でこれをやるにはなかなか大変なので、そんなときには近似値が出せる簡易版の変換式がオススメ。
【 ℃ 】 =(【 ℉ 】 - 30 )÷ 2
【 ℉ 】 =【 ℃ 】 × 2 + 30
これなら電卓がなくても何とかなりそうですね。
当然誤差はありますが、0℉~100℉くらいの範囲ならざっくりおおよその換算は可能です。



アメリカに旅行へ行くときは覚えておくと役立つかもしれません。
華氏はどのように生まれたのか
さて、華氏というルールの概要はなんとなくわかりましたが、まだ判然としません。
だって水の沸点を212度と置くのが基準とか、基準間を180等分したのが1度とか。
どういう理由でそんな中途半端な決まりになったのか、あまりにも謎じゃないですか。
実はファーレンハイトが華氏を考案した経緯は、正確に詳細まで分かっているわけではありません。
つまり諸説あるのですが、現在一般的に知られている普及の流れを見ていきましょう。
ちなみにファーレンハイトが華氏を提唱したのは、セルシウスが摂氏を提唱する約20年前のことでした。
華氏の方がわずかに先に生み出されていたんですね。
もともとの基準は氷水と体温
先ほど、華氏の目盛りの基準は「水の凝固点=32℉」「水の沸点=212℉」であるとして見てきました。
しかしこれは現在の基準であって、元々ファーレンハイトが提唱した当時の原型は違っていたのです。
とはいえファーレンハイトも「低い温度の代表」と「高い温度の代表」をそれぞれ温度の基準点としたい旨の構想は持っていました。
彼はまず「低い温度の代表」を、実験室で自作した氷水の温度とします。
氷水は塩を混ぜたもので、こうすると凝固点降下の作用で氷点下にまで温度が下がるのです。
液体に特定の溶質を溶かすと、純粋な液体よりも凝固点が低くなる現象。
濃度25%程度の飽和食塩水であれば、その食塩水は-22℃まで液体のまま温度が下がる。
この氷水の温度が、元祖の華氏0度です。
ファーレンハイトが作り出せる最も低い温度、ということだったのかもしれません。
続いて「高い温度の代表」ですが、これはファーレンハイト自身の体温を基準にしたと言われています。
「温かいと言えばやっぱ俺でしょ」ということなんでしょうか。
彼は計測した体温を華氏96度とおきました。
なんだか半端な数字に見えますが、これは12段階のスケールを8倍細かくして100に近づけた数値(12×8=96)にあたります。
時計とか暦とか、12進数の仕組みは色々と例がありますからね。
それをより細かく分割すればより細かい温度測定ができるわけなので、96段階の尺度というのも一応理にかなっています。
というわけで、
- 塩を混ぜた氷水が0度
- 人の体温が96度
そしてその間を96等分したのが1度。
これが当初の華氏温度でした。
その後の基準の微修正
ファーレンハイトは、こうして自らの身の回りの温度から作り出した96段階のスケールで温度を記述していきます。
当初の華氏温度の基準によると、水の凝固点(水が氷になる温度)はだいたい32度に相当することが分かりました。
これを知った彼はこう思います。



水の凝固点が32度?
え、それめっちゃいいじゃん
というのは、32という数字はちょうど2の5乗(2×2×2×2×2=32)であるからです。
適当な線分を半分に区切って、そのまた半分に…というのを5回繰り返せば、簡単に32等分の目盛りが作れるわけですね。
ある意味キリのいい便利な数字と言えます。
また同様に、水の沸点(水が沸騰する温度)を調べてみると、だいたい206度に相当するようでした。
ファーレンハイトの興奮はさらに加速します。



じゃあもし水の沸点が212度だったら、凝固点との間隔がちょうど180度になる…ってコト⁉
それめっちゃいいじゃん!もう水の状態変化を基準にしちゃおう!
何がそんなにいいのかというと、「180」は当初の設計に使っていた「12」段階のスケールのちょうど15倍にあたります。
また約数が多いので、計算において非常に扱いやすい数字なのです。
たとえば一桁の約数に絞って考えてみても、
- 「100」を割り切れる一桁の数字の候補は、1, 2, 4, 5 の4種類
- 「180」を割り切れるのは、1, 2, 3, 4, 5, 6, 9 の7種類
ということで、180の方がバリエーション豊かですよね。
計算のしやすさは尺度において重要なポイントです。
ということでファーレンハイトは、これを温度の基準点として定めることにしました。
- 水の凝固点(水が氷になる=液体から個体になる温度)… 32℉
- 水の沸点(水が沸騰する=液体から気体になる温度)… 212℉
そうすると当初言っていたような
- 塩を混ぜた氷水が0度
- 人の体温が96度
といった元々の基準は少しずれてくるのですが…。
まあそのあたりはファーレンハイトも柔軟です。
「温かいと言えばやっぱ俺」みたいな理屈はもうこの際忘れることにして、水の状態変化というわかりやすい自然現象の方を採用したわけです。



一見すると中途半端な数字にしか見えない華氏の基準ですが、相応のロジックがあって決められたルールだったんですね。
摂氏と華氏、どっちがいい?
ファーレンハイトは、華氏温度に基づく水銀温度計も発明しています。
ガラス管の中に水銀が封入されていて、その膨張を利用して温度を読み取れる仕組みのものです。
これは目盛りによる定量的な測定ができる初めての実用的な温度計として、当時とても画期的な発明でした。
こうして彼の提唱した華氏温度は広く普及していくわけですが、しかし間もなくしてライバルが登場します。
今ではおなじみの「摂氏(せっし)」というやつですね。
摂氏の登場と普及
ファーレンハイトが華氏温度を提唱したのが1724年。
その後、セルシウスが摂氏温度の原案を生み出したのが1742年です。
わずか18年、ここから摂氏の追い上げが始まります。
ファーレンハイトはあれこれといい感じの数字になるようにスケールを調整していましたが、セルシウスの発想はもっとシンプルでした。



どうせ水の状態変化を基準にするんなら、もう凝固点と沸点を0と100にしちゃえば良くないですか?
だってそのほうが分かりやすいじゃん、ということです。
ちなみにセルシウスは当初、
- 水の凝固点が 100℃
- 水の沸点が 0℃
と、今の摂氏とは反対の目盛りを設定していました。
なんだか変な感じもしますが、こうしておくと外気温を測るうえでは負の数が出てこないので便利なんですね。
暑いアフリカの国で気温が60℃、極寒の南極で気温が-90℃だとして、当初のセルシウス式で測れば地球上の気温は40度~190度の正数で表せることになります。
とはいえやっぱり「温度が上がれば数字も上がる」という関係があった方が自然なので、ここは後に修正されました。
セルシウスが亡くなってすぐ、1744年に当初の基準点を反転させて定めた方式が、現在使われている摂氏そのものです。
- 水の凝固点(水が氷になる=液体から個体になる温度)… 0℃
- 水の沸点(水が沸騰する=液体から気体になる温度)… 100℃
こうして華氏より遅れて世に出た摂氏。
しかし私たちが知るとおり、世界で広く普及しているのは後発の摂氏温度のほうです。
なぜ華氏ではなく摂氏のほうが人気なのかといえば、やはり単純に「直感的に分かりやすいから」というところに帰結するのでしょう。
私たちは昔から10進法を採用していて、10や100や1000といったきれいな数字を目印とすることに慣れています。
32℉とか212℉とか、見た目があんまり基準点っぽくないですもんね。
0℃と100℃のほうがピッタリ感があるじゃないですか。
当時の物理学や化学や生物学の研究者たちも、多分そう感じていたのでしょう。
少なくとも科学実験の条件設定や分析を行う上では、圧倒的に摂氏の利用がスタンダードになっていきました。
華氏を使うことのメリット
じゃあ華氏の方がただ単に分かりづらいだけのスケールなのかというと、そうとも限りません。
言うなれば、華氏は日常生活場面にフィットした目盛りをもっているのです。
なぜなら、元々ファーレンハイトが身の回りの温度を基準として作り出したものだから。
私たちの普段の暮らしで経験するような温度の例を考えてみます。
たとえば日本の外気温を摂氏で見ると、
- 冬の北海道で-10℃くらい
- 真夏の「猛暑日」は35℃
まあこのくらいが常識的な気温の幅と言えそうです。
-10℃~35℃ をそのまま華氏に換算してみると、14℉~95℉ の幅に相当します。
これならマイナスも出てこないし「0~100」の範囲内にすっぽり収まるんですね。
逆にこの範囲を外れるような気候があれば、そこはかなり異常な寒さ/暑さだと言えるわけです。
風邪をひいて熱を測りたい場面でも、「高熱」と呼ばれる38℃は華氏にすると100.4℉。
「100度を超えたらいよいよヤバい」と直感的に判別することができます。
それから定義上、華氏の目盛りは摂氏のそれの1.8倍のきめ細かさをもっています。
つまり華氏には、温度をより詳細に表現しやすいというメリットもあるのです。
幅広い温度を自在に扱いたい科学実験シーンにおいてはやはり摂氏の方がわかりやすそうですが、普段使いのしやすさで考えればむしろ華氏に軍配があがるのかもしれません。
私たちが華氏を「分かりにくい」と感じるのは、たまたま子供のころから摂氏ばかり使っていたからというだけの、あくまで文化的な理由によるところなのでしょう。



そう考えると、少数派だからというだけで華氏の廃止を主張するのもちょっと乱暴に思えてきます。
摂氏も華氏も相対的
というわけで今回は、摂氏と華氏の特徴を比較し、また華氏が成立してきた経緯について見てきました。
- 摂氏は「水の凝固点:0℃」「水の沸点:100℃」を基準として、その100分の1を「1度」とした目盛り
→ 10進数が直感的にわかりやすく、世界のほとんどの国で採用されている - 華氏は「水の凝固点:32℉」「水の沸点:212℉」を基準として、その180分の1を「1度」とした目盛り
→ 日常生活で頻出の温度を正数で細かく扱え、アメリカやジャマイカで採用されている
華氏の温度表記を見るとたいてい摂氏のそれとは大きく違っているので、両者はまったく別の指標のように感じられることもあるかもしれません。
しかしこうして比較してみると、水の状態変化を基準として目盛りの位置と幅を定義するという根本的なコンセプトはどちらも共通しているんですね。
そして実はもう一つ共通しているのが、摂氏も華氏もあくまで相対的な温度であるということです。
つまり誰かが適当に仮置きした2つの基準点に依存するものさしでしかないということ。
その基準点をどこにするか、その間をどう区切るかというのは自由で、そこに熱力学的な必然性はないわけです。
「じゃあ絶対的な温度ってなんだよ」という話ですが、ケルビンという単位がそれにあたります。
絶対温度ケルビンと比較すると、摂氏も華氏もかなり近しい存在で、兄弟のようなものかもしれません。




絶対温度・ケルビンについて知ることで、「温度とは結局なんなのか」を理解することにつながります。
(…続きを読む)



とても身近なはずなのに、実はあまり知らない「温度」の世界。
深掘りしてみると面白いですね。



