次世代通信システム「5G」の行く先は?監視と秩序とパノプティコン(後編)

科学・技術

  (こちらの記事の続きです。)

前半のおさらい。

  • 5Gの実用化によって通信速度が爆速になれば、監視カメラの性能の向上が予想されている。
  • そうなれば、顔認証技術と相まって、生活が常に監視にさらされる「監視社会」が進行していく可能性がある。
  • サンフランシスコ市が公共機関の顔認証技術の利用を禁止したように、監視社会化していく未来を不安に思う人は少なくなさそうだ。

ということだった。

後半では5Gからは少し脱線して、「監視」のほうにフォーカスしてみる。

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監獄「パノプティコン」

「監視社会」を考えるときにたびたび引き合いに出されるものとして、18世紀に考案された「パノプティコン」なる監視システムがある。

これを提唱したのは、イギリスの経済学者でベンサム(1748-1832)というおじさん。

パノプティコンとはすなわち監獄のモデルであり、次のような構造をしている。

・円形の建物の中央に、監視のための看守塔が立っている
・看守塔を取り囲むように収容個室が並んでいる
・看守は中央から全ての受刑者を監視することができるが、受刑者側から看守の姿を見ることはできない

パノプティコン(全展望監視システム)

パノプティコンの最大の特徴は、受刑者が24時間絶え間なく監視を意識させられる点にある。
この意識によって、自然と受刑者が「望ましい振る舞い」をするようになる。

受刑者から看守の姿が見えないのもミソだ。
仮に監視役が看守塔にいなくても、受刑者は望ましい振る舞いを続けるだろう。

重要なのは「監視すること」ではなく、本人に「監視されていると意識させること」なのである。

外部的な権力や強制力をいかに働かせるかという発想から離れて、人間の内面にアプローチすることで自発的な服従を実現するというのは、まさに発想の転換というか、革新的なアイデアだったと思う。

すごいぞベンサム!

ところで、ここで話を「通信技術の発展による監視社会化」に戻すと、パノプティコンというシステムがいわゆる監視社会のイメージとかなり近いことに納得できる。

私たちは、街中にたくさんの監視カメラが設置されていて、うかつに悪いことをしたらカメラの記録から簡単に足がつくことを知っている。

監視カメラの中には、映像は確認できるが実は録画機能がないものとか、そもそもカメラですらない全くのダミーなんかもあるが、その判別ができない私たちはやっぱり自身の内面に「監視されている」意識を作り出すのである。

5Gの波に乗って監視カメラの性能が向上すれば、きっと私たちが感じる監視の意識の重みも大きくなる。

今後は世の中ががさらに監視社会化、パノプティコン化していくことになるかも。

今に始まったわけじゃない、監視の構造

実は社会においてパノプティコンのような監視の構造自体は、監視カメラの普及とともに現れたわけではない。

ミシェル・フーコー(1926-1984)というまた別のおじさんに言わせれば、義務教育にみられる学校の在り方は本質的にパノプティコンと同じような性格をもっている。

教師が「規範・規律」の監視役となって生徒の行動や成績に目を光らせ、上下関係によって従わせているうちに、やがて生徒自身の内面に規範意識(自分に対する監視の目、と言い換えられる)が形成され、自発的にその秩序に沿うように服従していく、というのである。

事実、ベンサム自身もパノプティコンを人権剥奪マシーンとして設計したわけではなく、その真の目的は、受刑者たちが自律的な生活を習慣化しスムーズに社会復帰できるよう「教育」することにあった。
(当時のほかの一般的な刑務所はもっと暴力的、非人道的だったらしい。)

監視社会とか、パノプティコン化というと、すごく絶望的な未来を想像してギョッとしてしまうが、実は私たちもパノプティコン的な教育を受けてすくすく育ってきたのである。

今思えば、1980年代に尾崎豊が熱狂的な人気を得て「学校という支配への疑問・反抗」を歌っていたのは、フーコーが主張したような視点があってこそだったといえるかもしれない。

尾崎豊『卒業』 – 「LIVE CORE 完全版〜YUTAKA OZAKI IN TOKYO DOME 1988・9・12」

学校というシステムがすでに社会の仕組みとして当たり前になっているように、もしかすると何年後かには監視カメラが強力に機能する監視社会はもう当たり前になっている可能性もある。

そうなれば、これから生まれてくるベイビーたちの世代にとっては、外で行動を常に監視されているなんてことはもはや当然の常識である。

やがて今度は「監視社会に縛られるのはウンザリだぜ」というアウトローな若者が現れて、

「夜の路地で監視カメラ壊して回った~♪」

のようなポップスがヒットするのである。

そんな社会が当たり前になるころには、きっと通信技術はさらに進化していて、6G、7Gなどと盛り上がっているに違いない。

技術の発展によって社会の仕組みが変わり、それによって人々の常識が変わるのである。

今、期待と不安との両方をつれて、5Gの世界がやってくる。

□5Gにより通信速度が向上すると、社会の監視機能も強化される。
・高画質でリアルタイムな監視、顔認証技術の搭載など、監視社会に対する不安もある。
□フーコーは、近代の学校教育が規範の内面化によって生徒をコントロールしている点を、監獄「パノプティコン」に例えた。
・監視社会の進行も、ゆくゆくは学校のように当たり前の仕組みになっていくかもしれない。

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