新約聖書には「東方の三博士」と呼ばれる人物たちがキリストに贈り物を届けにやってきたことが記述されており、これがクリスマスプレゼントの風習の起源ともいわれています。
このエピソードについて分かりやすく紹介していきます。
クリスマスに大切な人へプレゼントを贈る習慣はどこから始まったのだろうか。
その起源については諸説あるけれども、最も有力な説のひとつとされているのが、「東方(とうほう)の三博士(さんはかせ)」のエピソードである。
東方の三博士というのは、マタイの福音書の記述の中に登場する人物たちのこと。
そのエピソードをザックリとまとめると、
キリストの生誕を知った東方出身の賢者たち(三博士)が、プレゼントをもってはるばるマリアとキリストのところへやってきた!
というものである。
もう少し詳細な内容について、この記事で紹介していきます。
東方の三博士のエピソード
あらすじ
かつてイエス・キリストが、ユダヤの小さな町ベツレヘムに生まれたときのこと。
このときイエスの頭上に誰も見たことのない星が輝き始め、それを東の国に住む三人の占星術の学者たち(=「東方の三博士」)たちが目撃した。
彼らはこの不思議な星が放つスピリチュアルなパワーにより、
「これは新しいユダヤの王がこの世に誕生したのだな」
ということを予感する。
すぐに三博士たちは、キリストに謁見するため、星に導かれるままに西へ向かって旅を始めた。
さて、旅の途中で立ち寄った大都市エルサレムは、ユダヤ王国の首都。
三博士らは、そこでちょっと道を尋ねてみることにした。
「すみません、この辺で最近新しいユダヤの王がお生まれになったと思うんですけど、どこに行けば会えますかね?」
と問いかけたその相手は、よりによって当時のユダヤ国王であるヘロデ大王その人だった。
ヘロデ大王は、
「部下に調べさせた感じだと、どうやらベツレヘムにいるみたいですねえ。あ、もしその子を見つけたら私にも後で居場所を教えてくださいね^^」
などと、なんとか平静を装うのだけれど、内心気が気ではない。
だってその赤ん坊がホントに将来ユダヤの王になるというのなら、王座を奪われた自分はもう転落人生を送るのが確定してしまうのである。
今のうち何か手を打たねば…などとブツブツ言っているヘロデ大王はさておき、さっそく三博士たちはベツレヘムに歩を進めるのであった。
とうとうベツレヘムにたどり着いた三人は、とある馬小屋の上で例の星がランランと輝いているのを見つける。
中へ入ってみると、そこには聖母マリアと幼いキリストの姿があった。
「あ!探し求めていたのはこのお方に間違いない!」
と確信した三博士はキリストを拝み、携えてきた各自の贈り物をそれぞれ捧げたのである。
このとき彼らがキリストに贈ったのは、
- 黄金(おうごん) :いわゆるゴールド。きれいな貴金属。
- 乳香(にゅうこう):主に香料として使われる乳白色の樹脂。
- 没薬(もつやく) :香料や薬、防腐剤となる赤褐色の樹脂。
の3つのプレゼント。
こうして三博士は無事に目的を達成し、満足げに笑みを交わす。
ちなみに、ヘロデ大王との約束では帰り道にキリストの居場所を教えてあげることになっていたわけだが、
「ヘロデはちょっとヤバいヤツだから、キリストさんの情報は渡さない方が良いでしょう」
という夢のお告げがあったので、三人は別ルートを通ることにしたらしい。
ともかく、こうして東方からはるばるやってきた三博士は、人類で初めてキリストを拝んだラッキーパーソンとなって、また自分たちの国へと帰っていったのでした。
~おしまい~
三博士が訪問したことの意義
上記のエピソードは、新約聖書の中でもかなり有名なもののひとつである。
言ってしまえば「おじさん三人が赤ちゃんに会いに来ただけの話」なのだが、実はこのシーン、キリスト教的に大変意味のある場面だといえる。
なぜならこれは、今後2000年以上にわたって世界に大きな影響を与える神であるイエス・キリストが初めてこの世界で人類の前にその姿を現した記念すべきイベントだからだ。
キリストによる人々の救済はすべてこの瞬間から始まったんだ!という、いわばスタート地点ともいえるのが、この東方の三博士の物語なのである。
また、キリストを拝みに来たのが「異国の者」である東方の学者だったことも重要なポイントである。
ユダヤ教をルーツにもつキリスト教は、
「ユダヤ人に限らず、信じればすべての人が救われるんだよ!」
というのが大きなウリであったので、人種も文化も違うはずの偉い先生方がわざわざキリストを拝みにやってくるというのは、そうした教義をまさに象徴するような出来事だったわけだ。
三つの贈り物が意味するものとは
ところで、キリストに贈られたのは黄金と乳香と没薬。
東方の三博士はいったい何を思ってこのようなプレゼントを捧げたのだろうか。
相手は生まれたての赤ん坊なのだから、よだれかけやベビー服、ぬいぐるみなんかを贈ってあげたらいいのに。
しかし彼らの贈り物には、キリストの宿命を象徴するような意味がそれぞれ込められていたと考えられている。
- 黄金(おうごん)⇒ 王位の象徴
・・・ユダヤ人の王と呼ばれる存在となることを意味する - 乳香(にゅうこう)⇒ 神性の象徴
・・・神として人々から崇められる存在となることを意味する - 没薬(もつやく)⇒ 死の象徴
・・・人類の罪を背負って死ぬために生まれてきたことを意味する
黄金(おうごん)
美しく希少な金属である金(きん)は、今も昔も大変高価なシロモノである。
なぜなら金は化学変化を起こしにくく、長い年月を経ても美しい姿をほとんど失うことがない。
価値の保存に適した性質なので、「支配者」の力と富を示すのにはうってつけで、古くから王位の象徴として扱われてきた。
そしてイエス・キリストも、聖書において「地上の諸王の支配者」「王の王」などと称されるとおり、まさに王様の中の王様、キング・オブ・キングとして君臨していたわけである。
東方の三博士が黄金を捧げたのは、こうした「王としてのキリスト」を表しているといわれている。
乳香(にゅうこう)
乳香というのは、ボスウェリアという樹木からとれるミルク色の天然樹脂(樹液が空気に触れて固まったもの)のこと。
今でも「フランキンセンス」としてアロマの世界で流通しているように、お香として焚いたときの独特な香りが特徴である。
乳香は古代エジプトより「神にささげる香り」として宗教的な儀式に使われており、その文化がユダヤ教、ひいてはキリスト教にも引き継がれている。
東方の三博士が贈った乳香も、キリストが神と同一の存在であることの象徴だとされる。
没薬(もつやく)
そして最もイメージが浮かびにくいであろう没薬だが、実はこれも乳香と同じく天然樹脂の一種。
こちらはコンミフォラという樹木から採取され、「ミルラ」という別名でも流通している。
没薬は抗菌作用をもつことから、古代より死体の防腐処理に利用されてきた歴史があり、よって「没薬」と「死」との間には強い連想関係があるといえる。
キリストはいわば、自らの死によって人々を救うために生まれてきた人物であり、その宿命が没薬という贈り物によって初めから暗示されているというわけだ。
現代に見る東方の三博士の影響
新約聖書において重要イベントだった東方の三博士の訪問は、現在を生きる私たちにも関係している。
キリスト教では、東方の三博士がキリストに出会った日を記念して毎年1月6日頃に「公現祭(こうげんさい)」と呼ばれるお祝いをしており、そこで大切な人や子供たちにプレゼントを贈る習慣があったという。
同様にキリストの生誕を祝う12月25日のクリスマスでも、身近な人とクリスマスプレゼントを贈りあうのは私たちにもおなじみである。
こうした「聖なる日のプレゼント」の習慣のルーツとなっているものこそ、諸説あるものの、かつてあの東方の三博士がキリストに捧げた三つの贈り物なのではないかと考えられている。
ちなみに、クリスマスツリーのてっぺんによくつけられているお星さま。
あれは東方の三博士をキリストのもとへ導いたあの不思議な星(=「ベツレヘムの星」)を模しているらしい。
恋人や家族のことに頭がいっぱいなクリスマスも素敵だけれど、ふと2000年前のこの日に、キリストへのプレゼントを抱えてせっせと旅をしていた三人の博士たちのことを想ってみるのも、また乙なものではないだろうか。
□東方の三博士は、キリストを拝んで贈り物を捧げるため、星の導きにより異国の地からベツレヘムにやってきた
⇒ キリストが人類の前に初めて姿を現した重要なイベント
□東方の三博士が贈ったプレゼントにはそれぞれ意味が込められている
・黄金:キリストが王であることの象徴
・乳香:キリストが神であることの象徴
・没薬:キリストの贖罪による死の象徴
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