
十分に基準を満たした食用の金箔は、食べても健康上まったく問題ないとされています。
これに納得するために、金という元素がもつ性質について考えていきましょう。
金箔がふりかかっている食べ物って、たまに見かけますよね。
カステラやチョコレート、あとは高級寿司なんかの上にちらちらと飾ってあったりとか。
食用の金箔はAmazonなんかでもたくさん流通しており、その需要の高さがうかがえます。
とりわけ日本の金箔生産の99%を占めるという石川県金沢市では、金箔をこれでもかとふんだんに使用したキラキラスイーツが人気を博しているようです。
光り輝く金箔が、インスタ映えを華やかに演出していますね。
金箔ソフトクリーム
金箔ガトーショコラ
ところでこうした食品たちを見ると、「わあ!キラキラしてきれい!」となる前に、

え… これって食べても健康上問題ないの…?
などと冷めきったことを考えてしまう人もいるかもしれません。
ぼくはすぐにそう思いました。
だって金箔って、正真正銘あの金属の金ですよね?
金の延べ棒をスライスして食べてるのと同じですよね?
金属って普通食べちゃいけないじゃないですか。
…いや、しかし本当にそうなのでしょうか。

一体いつから「金属は食べられない」と錯覚していた?

(ざわ…ざわ…)
食べられる金属、食べられない金属

実は毎日金属を摂取している
冷静に考えてみると、人間って意外と日常的に金属を摂取していることに気づきます。
たとえばこうした金属たち。
鉄分・銅・マグネシウム・マンガン・亜鉛 …etc.
パッケージ裏の成分表示でよく目にしますね。
ミネラルと言ったりもします。
これらは確かに「金属」ですが、肉や野菜などいろんな食品に少しずつ含まれていて、ぼくたちはそれをモリモリ食べています。
それから鍋などの調理器具から溶け出した金属成分も、実は結構ガッツリ体内に取り入れています。
こいつらは有害どころか、むしろ栄養です。
カラダの健康に必要なので、サプリにもなっているわけですね。
ということは「金属は食べられない!」というのは直感的な思い込みに過ぎません。
いまさら金箔くらいで騒ぐなど笑止千万。
なぜなら我々人類はすでに、毎日金属を食している「金属喰い(きんぞくぐらい)」だったのですから。

な、なんだってーー!
…とはいっても、やはり金箔への抵抗感はぬぐえません。
実際「金属を食べるのはヤバそう」というぼくらの感覚は、日常生活を送るうえでとても妥当な認識と言えます。
だってサイズ感のある金属をわざわざ食べることなんて普通ないから。
ガチの金属製品(たとえば硬貨やアクセサリー)を丸かじりするなんて、言うまでもなく正気の沙汰ではありません。
ちっちゃな金属片みたいなものでも消化器官をボロボロに傷つける恐れが大いにあるので、基本食用はNGです。
だから一般的には、バッチリ視認できるような金属なんてむやみに口に運ばないほうがいいんですね。
当たり前です。
摂取しないほうがいい金属
そして「金属を食べるのはヤバそう」の説得力を支える事実がもうひとつ。
それは、マジで食べるとヤバい金属もちょいちょいあるということです。
水銀・ヒ素・鉛・カドミウム …etc.
なんだか名前だけでも毒々しい香りが漂ってくる感じがしますね。
いわゆる「有害金属」というやつで、公害病の文脈でも出てくる元素たちです。
過度な摂取はほんとに命に関わります。
有害金属を体内に入れることは、病気のリスクを上げるだけで特にメリットはないと言われています。まさに毒ですね。
とはいえこちらもいろいろな食品に微量ずつ含まれているので、完全に摂取しないことは難しい。
巷で話題のデトックスというのは、こういう要らん有害金属をさっさと体から排出しよう!という試みのことです。
結局のところ、金属だろうが何だろうが、栄養になるなら摂るのが良いし、毒になるなら摂らないのが良いんですね。
小学生のような結論に至ってしまいました。
金箔は食べても大丈夫?

さて、当初の疑問に立ち返ってみます。
金箔って食べても健康上問題ないの?と。
これまでの流れから、次のことがポイントになりそうです。
- 金が毒として作用しないか
- 金箔自体が消化器官を傷つけることはないか
金は体に良いのか悪いのか
世の中には、栄養になる金属と毒になる金属がある。
じゃあ金は?
栄養なのか。
毒なのか。
どっちなんだい!
ということですが、結論としては、そのどちらでもありません。
金はそもそも人体に吸収されず、栄養にも毒にもならずに体内を素通りしていきます。

えぇ…。
これには金という元素が持つ代表的な性質の一つが関係しています。
それは、化学反応がメチャクチャおきにくいというもの。
鉄や銅なんかだと適当に置いておくといつのまにか変色したりボロボロになったりしますが、金は基本的にいつまでたってもピカピカのままです。
だからヒトの体に放り込んでも、 金は唾液・胃液・腸液といった消化液たちの分解攻撃をものともせず、ゆえに吸収もされず、何食わぬ顔で颯爽と肛門から出ていくわけです。
まるで体内ウインドウショッピング(?)ですね。
ちなみに金を溶かせる液体なんてものは、「王水」とよばれる強力な酸を除いて他に何もありません。
そのくらい孤高の存在です。
金にはこうした抜群の化学反応耐性があるので、
「金なんか摂取したら体に悪いんじゃないか…?」
なんて心配はご無用なのです。
どうせぼくらには消化できないから。
濃塩酸と濃硝酸を3:1の割合で混ぜ合わせたもの。
金を含めほとんどの金属を溶かしてしまうヤバい液。名前がかっこいい。
金箔の物理的な攻撃力はどうか
金箔食に関するもう一つの懸念。
あんなサイズの金属を飲み込んで、ぼくたちの消化管は無事でいられるのか?
ということについてです。
なにしろ人間の喉や胃や腸は、ちっちゃな金属片でもボロボロに傷つけられるくらい、繊細なのです。
でも、これについても心配は要りません。
なぜなら金箔というのはとんでもなく薄く延ばされているからです。
体内を傷つける余地もないくらいにペラッペラで弱っちいのです。
どのくらい薄いのかというと、その厚みなんと約0.0001ミリ。
全然ピンと来ません。
とりあえず、皆さんが思っているよりもっともっと薄いんだぞ、ということです。
(トレーシングペーパーが0.08ミリくらい。その800分の1なので、とっても薄いですね。)
ここまで薄くできるのは、金のもう一つの代表的な性質である、優れた展延性(てんえんせい)によるもの。
展延性とは、力を加えたときに壊れることなく、ぐにょ~んと延び広がる柔らかさのことをいいます。
金箔はこの性質を利用して作られていて、たった1グラムの豆粒みたいな金をハンマーで叩きまくると、1メートル×1メートルの巨大な金箔シートを作れてしまうというから驚きです。
だから食用金箔も、結構お手頃な価格で流通しているんですね。
結論:金箔は気にせず食べてOK

まとめると、つまりこういうことです。
金箔を食べても特に体に悪影響はない。
というか栄養も何もないから、食べても食べなくてもマジでどっちでもいい。
以上です。
分かりやすくていいですね。
そして今回は、金という元素が持つ面白い性質を知ることができました。
- 性質1:化学反応がおきにくく、長い年数が経っても劣化しない
- 性質2:柔らかく展延性に優れるため、簡単に加工ができる
こうした特徴は、これまで金が人類史上で長らく担ってきた豊かさのシンボルとしての役割、また文字どおりに金(カネ)としての役割にうってつけだということにも気が付きます。
キラキラ光る希少な金属。思い通りに成形できて、ずっと美しいまま。
権力の誇示、価値の保存にピッタリです。
事実、古代エジプトのファラオであるツタンカーメン王(BC1332–1323)は、3000年以上の時を超えて、遥か極東の異民族にまでその権力を誇示することに成功しています。

こんなに高貴で希少な金属をふりかけにしてノーリスクで食べられるって、実はとってもすごいことなのかもしれません。
ご自宅の醤油さしのお隣に、今度は思い切って金箔フレークでも用意してみてはいかがでしょうか。
(ぼくは要りません。)
- 金属は意外と普段から摂取している。
- 金箔を食べても健康上全く問題ない。
– 消化されないので栄養にも毒にもならない
– とても薄いので消化管も傷つけない
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