新鮮な豆を使ってコーヒーを淹れると、粉がこんもりとドーム状に膨らんでいき、香り高いコーヒーが出来上がります。
この現象の鍵となるのは、コーヒー豆がもつ「ハニカム構造」。
豆の構造を知ることで、おいしいコーヒーが出来上がる仕組みが見えてきます。
ブラックコーヒーはお好きだろうか?
コーヒーの苦みは大人でも好き嫌いが結構分かれるところで、
「ブラックなんて飲むやつはカッコつけてるだけのスカシ野郎だ」
という強硬な否定派の意見もたまに目にする。
筆者も小学生の時分にコーヒーを初めて飲んだ時は「とにかく苦い汁」としか感じなかったけれども、今ではすっかりコーヒー愛飲家のスカシ野郎となった。
私も含めて、ブラックのコーヒーを好む人というのは、みんなきっとコーヒーの豊かな香りに魅力を感じているのではないだろうか。
挽いた焙煎豆にお湯を注いだ時のふわっと香るあのこうばしいアロマが、コーヒーを口に含んだ時にも鼻の奥に感じられて、それがたまらなく好きなのである。
コーヒーの抽出
ペーパードリップによる抽出
ひとくちに「コーヒーを淹れる」といっても様々な抽出方法があるのだが、インスタントコーヒーを除けば、もっともポピュラーなのはペーパードリップだと思う。
ペーパードリップなら、フィルターは使い終わったら捨てるだけ。
ドリッパーはサッと水洗いできるので、お手入れ楽チンでご家庭にピッタリである。
ペーパードリップでは、ざっくりと次のような手順をふむ。
「粉の膨らみ」がポイント
抽出がうまくいっているかを判断する基準としてよく言われるのが、「お湯を注いだ時に粉がしっかり膨らんでいるか」というポイントである。
粉がこんもりと膨らんだ状態を「コーヒードーム」とか「コーヒーブルーム」などといって、これは新鮮な豆で抽出できている証拠らしい。
筆者の経験上も、たしかに焙煎したての新鮮な豆を使ったときにはモコモコとしっかり粉が膨らんでくれる。
そしてそういうときは、やっぱり香りも味わいも深いコーヒーに仕上がっているような気がするのである。
粉が膨らむのはなぜか
焙煎豆のハニカム構造
新鮮な豆を使うと、なぜ膨らみやすいのか。
実はこれには、焙煎したコーヒー豆が「ハニカム構造」という内部構造をとっていることが関係している。
「ハニカム」とは英語で「ハチの巣」のことで、その名のとおりまるでハチの巣のように正六角形が隙間なく並んだ構造のことを意味する。
コーヒー豆を焙煎すると、細胞壁が炭化することによって、こうした正六角形の小部屋が細かーく形成される。
コーヒーを抽出する際にはまず焙煎豆を粒状に粉砕しなければならないが、粉にしたあとでも、このハニカム構造は1粒1粒にしっかりと残っているという。
小部屋の中にはうま味がたっぷり
コーヒー豆は、加熱(焙煎)によってその豊かな香りや味わいのもととなる成分を生み出していくが、こうした成分はハニカム構造を構成する小部屋のひとつひとつに蓄積されることとなる。
小部屋の壁の内側には、コーヒーのうま味成分がたっぷり付着しているほか、香りを作る炭酸ガスが充満している。
こうしたコーヒーの成分を取り出し、お湯に溶け出させる作業こそが「コーヒーの抽出」なのである。
閉じ込められていたガスが放出される
コーヒーの粉にお湯をかけると、お湯は徐々にハニカム構造の壁の内部へと浸透していく。
このとき逆に、構造の内部にたまっていた炭酸ガスは外に押し出されることになる。
炭酸ガスが周りのお湯に溶け出すことで、ドリッパー内部の圧力が高まり、これによって表層の粉が押し上げられて「コーヒードーム」ができるというわけだ。
コーヒー豆は、焙煎した後そのまま置いておくと、時間が経過するにつれて少しずつ炭酸ガスを空気中に放出してしまう。
焙煎から時間が経っていない新鮮な豆ほど、ハニカム構造の中により多くの炭酸ガスを閉じ込めていることになるから、抽出のときに生じる圧力も大きくなり、より大きく粉が膨らむことにつながるのである。
膨らみがコーヒーをおいしくする
コーヒーエキスをいかに取り出せるかが勝負
「蒸らし」の工程において、炭酸ガスを押し出してハニカム構造の小部屋に流入したお湯は、壁の内側に付着するコーヒー成分を溶かしていく。
そしてコーヒーのうま味や香りが凝縮された濃厚なコーヒーエキスが小部屋の中にできあがる。
コーヒーのおいしさというのは、このコーヒーエキスをいかに多く、スピーディに取り出せるかにかかっているのである。
抽出に時間をかけすぎると、余分な雑味成分までもが溶け出してしまう。
大きく膨らめば隙間が増える
実は、炭酸ガスの放出による粉の膨らみが、コーヒーエキスをスムーズに取り出すうえで重要な役割を果たしている。
粉が大きく膨らむことにより粒と粒との間隔が広くなるため、そこにお湯が入り込むことで、ハニカム構造の小部屋にお湯が触れる表面積がグッと大きくなる。
また、ドリッパーの中でお湯が上下に対流するような動きも生まれる。
これにより、より多くのコーヒーエキスを短時間でお湯の中に溶け出させることができるのだ。
仕組みを知れば、「蒸らし」も楽しくなる
「コーヒーを淹れるときはまずしっかり蒸らしましょう!」
とは聞くものの、蒸らしている間は待つだけなので、
「うーん面倒だなあ」
なんて考えがちである。
しかし、抽出の仕組みを考えれば、蒸らしの時間こそコーヒーがおいしさを増幅させているゴールデンタイム。
「いまハニカム構造の中にお湯が浸透して、着々とコーヒーエキスが育っているな」
「香り豊かな炭酸ガスがあふれて、コーヒードームが出てきたな」
などとドリッパーを見つめながら、穏やかな心でコーヒーを淹れてみよう。
きっと、コーヒーを淹れる過程そのものがリラックスできる時間になると思う。
□焙煎したコーヒー豆は、ハニカム構造をとっている
□新鮮な豆ほど、ハニカム構造の中に多くの炭酸ガスを閉じ込めているため、抽出のときに粉がよく膨らむ
⇒ コーヒーエキスがスムーズに溶け出せるため、おいしいコーヒーになる
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