1本の原木から全国に広まったクローンの桜、ソメイヨシノ

生物・自然
ラビまる
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桜でもっともポピュラーな品種「ソメイヨシノ」。
実は自然に広まったのではなく、すべて人の手で複製されてきたんです。


春といえば桜のシーズン。

毎年3月下旬から4月半ばにかけては桜の開花情報が注目を浴び、花見客が集まってくる。

この記事を書いている2020年は、3月14日にはすでに東京で開花したそうだ。
平年よりかなり早いですね。

ところで、観賞用の桜としてもっとも代表的なのは「ソメイヨシノ」という品種である。

なんでも全国の桜のうち約8割がソメイヨシノなんだとか。

見慣れたソメイヨシノの花弁。

しかし桜の種類自体はもっとたくさんあって、園芸用に交配されたような品種もぜーんぶ含めると、日本におよそ600種類くらいは存在しているらしい。

そんななかで堂々8割のシェア率を誇るソメイヨシノとは、いったい何者なのだろうか。

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ソメイヨシノはなぜ人気か

ソメイヨシノという品種が交配によって開発されたのは、江戸時代末期のこと。

そこから徐々に全国に広まり、今では圧倒的な人気を誇っている。

これほど普及したのは、ソメイヨシノが様々な点で、観賞用の桜として優れた特徴をもっていたからといえるだろう。

ソメイヨシノの特徴
  • 花弁が大きく、整った形をしている
  • 葉が出始める前に花が咲く
  • 木の成長が早い
  • 比較的丈夫で育てやすい

これらの特徴のとおり、たいへん観賞向きな桜である。

特に「葉が出始める前に花が咲く」おかげで、お花見シーズンには木を覆いつくすような一面の花の美しさを楽しむことができる。

今やソメイヨシノが多すぎて、桜といえば花が先に咲くものだという感覚すらある。
しかしほかの品種をみると、葉と花が同時につきはじめるような桜もかなり多いのだ。

葉がついた桜も、これはこれでキレイです。

いいところづくめのソメイヨシノだが、弱点があるとすれば、病気に対してはめっぽう弱い。

これはソメイヨシノが、すべての個体がまったく同じ遺伝子をもつクローンであるという宿命を背負っているがゆえの弱点である。

実は私たちが見ているソメイヨシノの木々は、人為的に複製されたコピーのようなものなのだ。

人がせっせと増殖させてきたソメイヨシノたち

桜には「自家不和合性」という性質を持つ品種が少なくない。

すなわち、自分自身や、自分に近い遺伝子をもつ仲間の花粉によっては受精しないという性質である。
受精しなければ、種子ができないので子孫を残せない。

ソメイヨシノもまた、自家不和合性を強くもつ品種のひとつである。

ということは、いくらソメイヨシノが素晴らしくても、子孫を残すためにはまた別の系統の品種と交配させなければならない。
そしてその瞬間、子孫はもはやソメイヨシノではない別の品種となってしまうのだ。

「自家不和合性」は、種の多様性を広げるための生存戦略である。

そこで、ソメイヨシノを広めるためにとられた作戦が、「接ぎ木(つぎき)」と呼ばれる手法である。

接ぎ木とは、増やしたい品種Aの一部を切り取って、土台となる別の品種Bにくっつけて成長させることで、品種Aのクローンを作り出すというもの。

なんと全国に植わっているソメイヨシノはすべて、このような接ぎ木(もしくはそれと似た複製手法)によって人がコツコツと増やしてきた「1本の原木の分身(=クローン)」なのである。

クローンたちは遺伝子情報がまったく同じコピーなので、どの病原菌に対して強い・弱いといった個性も共有している。

あるひとつの病気がきっかけで、すべての個体が全滅してしまうリスクを抱えているということだ。

クローンだからこそお花見が盛り上がる

一斉に咲き始め、一斉に散る桜

桜といえばパッと咲いては散っていく儚いイメージがあるが、あれはソメイヨシノがクローンであるおかげで際立つ現象だといえる。

クローンだからこそ、同じ地域に植えられているソメイヨシノは、すべての木がほぼ同じタイミングで満開になる。
そのため「見ごろ」の時期には、迫力のある美しい景色が出来上がる。

また、花が散り始めるのもやはり同じタイミング。

たくさんの桜の木々が一気に寂しくなるので、

「ついこの間まで満開だったのに、花の美しさは儚いなあ」

などと、しみじみした感傷に浸ることができるのである。

開花予想と桜前線

毎年春ごろになると桜の開花予想でメディアが盛り上がるが、あれも全国のソメイヨシノがクローンであるおかげ。

すべてのソメイヨシは、気温などの条件がそろえば同じように開花する。
個体差によるバラツキは考えなくていい。

そのため、

「東京で開花が観測されたから、もうちょっと寒いエリアでは〇日後かな」

といった具合に、ある程度正確な予測ができるのである。

また「桜前線」というように、開花予測日が層のようにキレイにエリア分けされるのも、クローンの特徴を反映しているといえる。

桜前線。ヒートアイランド現象のため、だいたい都市部の開花が早くなる。

ソメイヨシノに感じるロマン

古くから日本人は、パッと咲いてはサッと散る桜に「人生の儚さ」を重ねて、諸行無常に思いをはせていたという。

ソメイヨシノが開発され大いに広まった今を生きる私たちは、そのような感覚をよりダイナミックに味わうことができる。

また、目の前のソメイヨシノの木の1本1本が人の手によってそこに植えられてきたことを思うと、なにやら白黒フィルムを見ているような、じんわりとした感動がある。

私は春が来るたび、桜の木を手でさすりながらそんなことを考えている不審者である。

ソメイヨシノはすべて、1本の原木から「接ぎ木」などによって複製されたクローン
・一斉に咲いて一斉に散るのはクローンだから
・桜前線があって開花予想ができるのはクローンだから

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