過去に人類を脅かしてきた感染症のうち、特に多くの死者を出した代表的なもの5選の特徴をざっくりと比較していきます。
2020年は、新型コロナウイルスの大規模な流行で話題がもちきりの1年だった。
このような「パンデミック」と呼ばれる現象は、今回に限らず、これまでの長い人類の歴史の中で幾度となく発生してきた。
この記事では、過去に流行した感染症の中でも特にパンデミックが大規模に及んだ悪名高いものたちを5つピックアップし、その特徴をザッとまとめてみたい。
なお、それらの多くは今でも毎年一定の死者を出し続けており、決して「過去の悲劇」では済ませられない病気である。
歴史上の代表的な感染症5選
これまで特に死者数の多い大流行があった感染症で代表的なものは、次のとおりである。
その大まかな特徴をまとめると、下記の表のようになる。
名 称 | ペスト | 天然痘 | コレラ | インフエンザ | AIDS |
症 状 | 高熱ほか | 体内外の発疹 | 下痢による脱水 | 高熱ほか | 免疫力の低下 |
病原体 | ペスト菌 | 天然痘 ウイルス | コレラ菌 | インフルエンザ ウイルス | HIV |
治療法 | 抗生物質 | なし (対症療法) | 抗生物質& 点滴療法 | 抗インフル エンザ薬 | 抗レトロ ウイルス薬 |
最大の 流行期 | 1347-1352 (約2億人) | 1518-1568 (約5600万人) | 1817-1923 (約100万) | 1918-1920 (約5000万人) | 1981-現在 (約3000万) |
ここからは、それぞれの特徴についてもう少し詳しく見ていこう。
ペスト
ペストは、過去に何度も世界を混乱に陥れてきた「伝染病の代表格」ともいえる感染症である。
もともとはネズミなどのげっ歯類が持つペスト菌が、ノミの吸血や感染者の咳なんかによって広がっていく。
特に悲惨だったのは14世紀に生じた大流行で、このときには全世界で2億人とも推計されるとんでもない数の死者が出たという。
当時ヨーロッパに住む人の3人に1人がペストで死んでいったというのだから、そんな世界を生きる絶望感たるや、想像するに余りある。
ペスト感染者の一部は全身の皮膚のあちこちが壊死して黒く変色した末に息絶えていくことから「黒死病(Black Death)」というまがまがしい別名でも知られている。
ペストには感染の仕方によっていくつか種類があり、
- 腺ペスト
⇒ リンパ節が菌に侵され、大きく腫れる - 肺ペスト
⇒ 肺が菌に侵され、肺炎などをおこす - 敗血症ペスト
⇒ 血液循環により菌が全身に感染し、壊死や内出血をおこす
といった分類がされている。
(黒死病という名の由来になったのは”敗血症ペスト”の症状)
ペストの死亡率は総合して60%~90%と非常に高く、しかも感染からわずか数日以内に死亡してしまう。
まさにキングオブ感染症と呼ぶにふさわしい悪魔の病気だ。
天然痘(てんねんとう)
天然痘もまた、長きにわたり人類を苦しめてきた感染症である。
非常に感染力が強いのが特徴で、発症すると全身の皮膚や気管支、臓器にまで発疹(ほっしん)が生じ、重篤な場合は死に至る。
日本においては、奈良時代に発生した天平の疫病大流行(735-737)の正体こそがこの天然痘であった。
一方、世界的な流行として最も大規模だったのは、16世紀に起こったパンデミックである。
大航海時代が幕を開けた当時、天然痘ウイルスをもったヨーロッパ人が次々と南北アメリカ大陸へ進出していき、それにより全く免疫を持たない原住民たちは壊滅的な疫病被害を受けた。
それまで栄えていたアステカ帝国やインカ帝国が滅んだ大きな原因の一つが、この天然痘による人口激減だったといわれる。
なお、天然痘は一度かかったら今後二度とかかることはないことが昔から知られていて、今ではおなじみの「ワクチン」の技術は、天然痘予防の研究として初めて発見されたものである。
19世紀ごろからワクチン接種が世界中に浸透するにつれ天然痘患者は徐々に減少していき、なんと現在では天然痘という病気はすでに地球上から根絶したものと認定されている。
天然痘は歴史上で唯一、人類が完全に克服した感染症なのである。
コレラ
コレラは、コレラ菌で汚染された水や食料を摂取することによって感染する病気である。
発症すると「米のとぎ汁」と形容されるような激しい下痢や嘔吐が続くことで脱水状態となり、治療なしではわずか数時間のうちに死んでしまう。
抗生物質を投与することで体内のコレラ菌を減らすことはできるものの、下痢が続く限りは脱水を免れないので、生きるためには絶えず経口補水液を摂取し続けなければならない。
コレラの世界的流行があったのは、19世紀に入ってからである。
もともとインドのあたりで見られる風土病だったコレラは、この頃に爆発的に世界へ広まって計6回にもわたる断続的なパンデミックの波を引き起こし、その感染力の強さを見せつけた。
感染拡大の背景には、
- イギリスによるインドの植民地化で、アジア→英国→世界という感染経路ができてしまったこと
- 産業革命による工業化の波が各国に広がっており、都市部の公衆衛生が劣悪な環境にあったこと
があった。
上下水道の整備が不十分な当時の都市部では、感染者の排泄物は川に流入し、そのまま下流の人々の生活用水となる。
今の先進国ではインフラ整備が行き届いており汚水によるコレラの感染はほとんど見られないけれども、東南アジアやアフリカの一部地域では依然として上記のような劣悪な環境があり、毎年コレラによる多数の死者を出しているのである。
インフルエンザ
もはや冬の風物詩のひとつとして私たちの生活にすっかり馴染んでいるインフルエンザも、ちょっと前には深刻なパンデミックの歴史がある。
第一次世界大戦(1914-1918)の終期に爆発的に広がって多数の死者を出した、いわゆる「スぺインかぜ」の病原体こそが、そのインフルエンザウイルスだった。
「なんだよ、ただのスペインで流行った風邪かよ」
と侮ってはいけない。
インフルエンザの感染力は、”influenza(イタリア語で「影響」)” の名が示すとおりすさまじいものである。
発症すると発熱や頭痛といった基本的な症状のほか、肺炎などの呼吸器系の合併症を引き起こすことも多い。
当時は免疫も治療薬も皆無なので長期化・重症化しやすく、たくさんの人が命を落とした。
感染者数だけなら世界の全人口の半数ほどに及んだともされ、ペストや天然痘に劣らない規模の大流行だったのだ。
インフルエンザウイルスにはいくつかの型があるほか、せっかく薬を開発してもすぐに耐性を備えた突然変異種が出現してしまうという特徴がある。
いま抗インフルエンザ薬として使用されているタミフルやリレンザといった薬も、いつまで有効か分からないということだ。
現代に生きる私たちにとってもインフルエンザは相変わらず大きな脅威のままなのである。
AIDS(エイズ)
AIDS(エイズ・後天性免疫不全症候群)はいわゆる性感染症のひとつで、HIV(ヒト免疫不全ウイルス)の感染により引き起こされる。
病原体の存在が確認されたのは1981年のことで、歴史的にかなり新しい部類の感染症といえる。
HIVがもたらすのは、ヒトの免疫細胞の破壊である。
感染者はHIVの作用により時間をかけて徐々に免疫力を失っていき、最終的には普通の人がかからないような菌・ウイルス性の病気にも簡単に侵されるようになってしまう。
こうして一定の合併症を発症した状態を「AIDS」と呼ぶわけである。
そしてこれまでに見てきた感染症とは異なる、AIDSの特に恐ろしいポイントが次の2点。
- 感染から発症まで長くて15年以上と、潜伏期間が非常に長い点
- 現在も世界的流行の真っ最中である点
下のグラフは日本国内の感染者数の推移を示しているが、これを見てもAIDSが今なお現在進行形で拡大していることをうかがい知ることができる。
誰もが無自覚のうちに感染拡大の一端を担ってしまう可能性をもっていることからも、これからの未来を生きる私たちがぜひとも認識しておくべき感染症だといえるだろう。
この記事のおさらいクイズ
以上、代表的な感染症の歴史と特徴についてでした。
最後にこの記事でみてきた知識をササっとおさらいしてみよう。
コメント