【伝導・対流・放射】3種類の熱の伝わり方の違いを身近な例とともに比べてみよう


私たちは毎日、熱の恩恵を受けて暮らしていますよね。

天気のいい日に太陽の光を浴びて「あったかいなあ」と感じたり。
寝る前には、お風呂でシャワーのお湯を浴びて「あったかいなあ」と感じたり。

どちらも外部の熱を身体で感じている状況なのですが、実は太陽の光とシャワーのお湯では「熱の伝わり方」が違います。

太陽の光が熱を伝えるのは「放射」のはたらき。
シャワーのお湯が熱を伝えるのは「伝導」のはたらきです。
またそのどちらとも違う、「対流」という熱の伝わり方もあります。

この記事では、それぞれの熱の伝わり方の違いをざっくりまとめて比較します。

目次

3種類の熱の伝わり方

まずは結論から。
熱の伝わり方には、次の3パターンがあります。

  1. 伝導(でんどう):分子がぶつかって熱が伝わる
  2. 対流(たいりゅう):熱をもった分子自体が移動する
  3. 放射(ほうしゃ):電磁波が遠くの分子を振動させる

身の回りのあらゆる熱の移動の方式は、すべてこの3パターンのいずれかに分類することができるわけです。

それでは順番に詳しく見ていきましょう。

伝導(でんどう)

伝導(でんどう)は、物質同士の接触によって熱が伝わることです。
もっともシンプルで想像しやすい熱の伝わり方かもしれません。

たとえば火にかけた鉄板を手で触ったら、当然熱いですよね。
これは鉄板から肌へと熱が一気に移動するからです。

もっとミクロな視点で言えば、物質を構成する分子が衝突することで熱の受け渡しが起こっているということ。
激しく運動している鉄板側の分子が、肌を構成する分子にぶつかって、そのエネルギーを受けることで肌が熱くなったりやけどをしたりします。

また鉄板の内部でも、火にかけた部分から同心円状に時間をかけて端まで熱が移動していきます。
はじめはそれほど熱くなかった鉄板の持ち手も、しばらくするとアツアツになりますよね。

同じ物質内での熱の移動も伝導のはたらきです。
鉄板を構成する分子と分子とが振動&衝突することで、バケツリレーのように熱を伝えているわけです。

伝導のはたらきで熱が伝わるイメージのイラスト。分子が別の分子に衝突して、エネルギーが直接伝達されることで熱が伝わる。
「伝導」で熱が伝わるイメージ

ちなみに伝導による熱の伝わりやすさは、物質の種類その状態(固体・液体・気体)よって異なり、その度合いを「熱伝導率(ねつでんどうりつ)」といいます。

熱伝導率は一般に 固体 > 液体 > 気体 となりますが、この傾向は物質の密度の違いによるものです。
つまり固体より液体のほうが密度が小さく、分子がバラバラに散らばっている。
そして液体より気体のほうさらに密度が小さく、もっと分子がバラバラに散らばっています。

密度が小さい気体においては、分子が衝突する機会自体が減ることになるので、なかなか熱が伝わりません。

70℃のお湯に触ると一瞬でやけどしてしまいますが、70℃のサウナに入っても全然平気ですよね。
気体ではそれくらい熱伝導率が低い(肌に衝突してくる分子が少ない)ということなのです。

対流(たいりゅう)

対流(たいりゅう)は、空気や水の流れで熱が移動することです。

たとえば沸かしたお風呂のお湯をしばらく放置すると、いつの間にか上の方だけが熱くなって、下の方は冷たい水がたまっていることがあります。
これは温度にムラのあるお湯のうち、比較的熱い部分だけが上の方へ移動し、比較的冷たい部分は下の方へ移動したから。

対流は伝導とは違って、分子が熱エネルギーを別の分子へ受け渡しているのではありません。
熱エネルギーをもった分子それ自体が、別の場所へ移動しているんですね。

どうして分子が移動するような動きが生じるかというと、これまた密度が関係してきます。

空気や水のように形が自由なものを「流体」といいますが、流体の密度というのは温度によって変化する性質があります。

  • 温度が上がると、膨張して密度が小さくなる
  • 温度が下がると、収縮して密度が大きくなる

密度が小さくなるということは、体積あたりに存在する分子の量が減るわけなので、比重が軽くなるということです。

熱い流体と冷たい流体が混ざり合っている場合、熱い流体は周囲より軽いので浮き上がろうとします。
逆に冷たい流体は周囲より重いので沈んでいきます。

ただ温度差があるだけで、流体はひとりでに内部で熱を伝えるような流れを作り出すんですね。

対流のはたらきで熱が伝わるイメージのイラスト。温度の高い流体は体積が大きいので比重が軽くなって上へ、温度の低い流体は体積が小さいので比重が重くなって下へ、それぞれ移動する流れができる。
「対流」で熱が伝わるイメージ

ちなみに対流が生じるのは、気体または液体に限ります。
比重の違いで浮き沈みするためには、分子どうしが自由に移動できる状態でなければならないからです。

しかし例外的に、固体の中で対流が起きるケースも一応存在します。
その例外というは、地下深くにある「マントル」の対流。

マントル

地球の内部構造のうち表面の「地殻」と内側の「核」との間にある層のこと。
厚さ2,900kmの岩石で、地球の体積の80%ほどを占めている。

鉱物から成るマントルはガチガチの固体なのですが、すさまじい高温と高圧の環境にあるため、ごくわずかな流動性をもっています。
そのため非常に長い年月をかけながら、核からの熱を受けてゆっくりとした対流現象が生じるんですね。

実は大陸の形成も地震も火山活動も、元をたどればマントルの対流の副作用なんですよ。

放射(ほうしゃ)

放射(ほうしゃ)は、電磁波が分子を振動させて熱を伝えることです。
これまでの2つと比べてちょっと特殊な感じがしますね。

最もわかりやすい例は、電子レンジです。
電子レンジはオーブンのように内部を直接高温にしているわけではありません。
マグネトロンという部品から電磁波を発生させることで、食品中の水分子を振動させて温めているのです。

そしてマグネトロンに限らずあらゆる物体は、何もしなくても温度に応じた強度の電磁波を周囲に放出しています(=熱放射)。
物体の温度が高いほど、よりエネルギーの大きな(波長の短い)電磁波を出し、それがぶつかった対象に熱を伝えます。

たとえば炭火料理では、伝導と放射の2パターンの熱の伝わり方が同時に起きていると言えるでしょう。

高温となった炭が金属グリルに熱を伝え、グリルが食材の表面に直接焼き目をつけるのが「伝導」のはたらき。
高温となった炭から強い電磁波(遠赤外線)が出て、食材中の分子を振動させて中から加熱するのが「放射」のはたらきです。

「肉は炭で焼いたほうが美味しい」というのは、じっくり均一に加熱できる放射のメカニズムがあってこその利点なのです。

放射のはたらきによって熱が伝わるイメージのイラスト。熱をもつ分子が電磁波を放出し、離れた別の分子がそれを吸収することで熱を発する。
「放射」で熱が伝わるイメージ

そして伝導や対流との決定的な違いが、熱の伝達を媒介する分子が必要ないということ。

だからこそ私たちは太陽の光を浴びて「あったかいなあ」と感じられるのです。
宇宙空間は真空(=ほぼ分子がない環境)なので、普通なら熱が伝わるはずないですもんね。

私たちの目に見える太陽光はものすごい強度の電磁波の一部であって、それが長い宇宙の旅をへて地球上に到達したときに、そこでようやく「あたたかさ」に変換されます。
いわば太陽も電子レンジと同じ仕組みで、私たちの身体に電磁波をあてて水分子を振動させることで温めているわけです。

ちなみに私たち人間も体温(熱)をもつ物体ですから、太陽と同じく自ら電磁波を放射しています。
それを検知するのが体温測定に用いられる「サーモグラフィー」です。

比較のまとめ

ということで、今回は3種類の熱の伝わり方の特徴をそれぞれ学んできました。

今回のまとめ
  • 伝導は、物質同士の接触によって熱が伝わること
  • 対流は、空気や水の流れで熱が移動すること
  • 放射は、電磁波が分子を振動させて熱を伝えること

熱は私たち生命の活動に欠かせない根本的なエネルギーであり、人類が発明してきた様々な道具を機能させる動力源でもあります。

身の回りのどんなところに熱のはたらきがあるか、またそれがどの種類の伝わり方をしているかに注目してみると、世界の見え方がまた少し変わってきそうですね。

それでは最後に、伝導・対流・放射の特徴を表にまとめてみましょう。

名称伝導対流放射
伝熱の原因直接接触密度の差熱放射
熱を伝えるもの分子の衝突分子の移動電磁波
物質の状態固体/液体/気体液体/気体固体/液体/気体
身近な例カイロ
鉄板料理
アイロン
お湯の循環
冷暖房の循環
季節風の発生
電子レンジ
炭火料理
太陽放射

今度サウナに入ったら、伝導・対流・放射の熱をまとめて同時に肌で感じてみよう!

この記事を書いた人

色んな事に興味が尽きない "興味の窓" の管理人です。
大学時代の専攻は心理学。公務員を経て、現在はフリーのデザイナー。
読んでくれた方の興味が広がるきっかけとなるようなコラムを発信してみたいと思い、ちびちびとサイトを更新しています。

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