
10種類の泉質を紹介し、それぞれの含有成分や効能(適応症)をすっきりとまとめます。
温泉に入ろうとすると、「この温泉は肩こり・リウマチに効きます」とか「切り傷・やけどを癒します」とか、仰々しい看板が掲げられているのをよく目にする。
いわゆる療養泉というのは、その含有成分によって10種類に分類されていて、その種類ごとに効能(正確には「適応症」)が設定されているのである。
この10種類の分類を泉質(せんしつ)という。
温泉の中でも特に、源泉温度または含有する特殊成分の量が一定以上であり、医学的な観点で治癒・療養効果が期待できるもののこと
この記事では、泉質の種類とその特徴をザッとまとめ、成分や適応症についても比較していきたい。
泉質を知れば、温泉地を訪れるのが今よりもっと楽しくなるかも?
温泉の泉質一覧
環境省の定める「掲示用泉質名」によると、温泉の泉質は次のとおり分類される。
① 単純温泉(たんじゅんおんせん)
② 二酸化炭素泉(にさんかたんそせん)
③ 炭酸水素塩泉(たんさんすいそえんせん)
④ 塩化物泉(えんかぶつせん)
⑤ 含よう素泉(がんようそせん)
⑥ 硫酸塩泉(りゅうさんえんせん)
⑦ 含鉄泉(がんてつせん)
⑧ 硫黄泉(いおうせん)
⑨ 酸性泉(さんせいせん)
⑩ 放射能泉(ほうしゃのうせん)
その特徴をまとめたのがこちら。
泉質名 | 主な含有成分 | お湯の色 | いいところ | 適応症の例 |
①単純温泉 | ー | ・無色 ・薄青 | だれでも安心 | ・不眠症 ・うつ |
②二酸化炭素泉 | 二酸化炭素 | ・無色 | 血行が良くなる | ・切り傷 ・冷え性 |
③炭酸水素塩泉 | 炭酸水素ナトリウム | ・無色 ・薄茶 | 肌がなめらかになる | ・切り傷 ・冷え性 |
④塩化物泉 | 塩化ナトリウム | ・無色 ・薄茶 | 保温効果が高い | ・切り傷 ・冷え性 |
⑤含よう素泉 | よう素 | ・茶褐色 | 動脈硬化を予防する | ・高コレステロール血症 (飲用の場合) |
⑥硫酸塩泉 | 硫酸塩 | ・無色 | 傷によく効く | ・切り傷 ・皮膚病 |
⑦含鉄泉 | 鉄 | ・赤褐色 | 身体が芯まで温まる | ・冷え性 ・貧血(飲用の場合) |
⑧硫黄泉 | 硫黄 | ・乳白色 | 「これぞ温泉」感 | ・生活習慣病 ・皮膚病 |
⑨酸性泉 | 水素 | ・無色 ・白濁 | 強い殺菌作用をもつ | ・アトピー ・その他皮膚病 |
⑩放射能泉 | ラドン | ・無色 | 広く万病に効く | ・痛風 ・各種炎症 |
①単純温泉 – 無色透明無味無臭のプレーンな泉質
泉温が25℃以上で、温泉水1kg中の溶存物質が1000mg未満のもの

<出典:wikipedia (by Arnaud Malon)>
単純温泉は、これといって特徴がないのが特徴。
定義上、温泉に含まれている成分は少なく、「普通のお湯」に近いベーシックな泉質である。
とはいえ泉温25℃以上という温かさは保証されているので、温泉に期待されるリラックス効果や疲労回復効果は十分に発揮してくれる。
また含有成分が少ないからこそ、お湯が柔らかく、老若男女問わずだれでも安心して入れるというメリットあるともいえる。
②二酸化炭素泉 – 炭酸がシュワシュワ気持ちいい泉質
温泉水1kg中に二酸化炭素を1000mg以上含むもの

二酸化炭素泉は、ソーダ水のように細かい気泡がシュワシュワと発生することから「泡の湯」とも呼ばれる。
炭酸ガスが皮膚をとおして体内に吸収されると、私たちの体はもっと積極的に酸素を取り込もうと血液の循環を促進させるので、血行が良くなって冷え性などに良いとされる。
血の巡りが良くなるということは、その分のぼせやすいということなので、長湯にはご注意を。
③炭酸水素塩泉 – お肌がツルツルになる美容の泉質
温泉水1kg中の溶存物質が1000mg以上で、主成分が炭酸水素イオンのもの

炭酸水素塩泉の主な含有成分である炭酸水素ナトリウム(NaHCO3)は、いわゆる「重曹(じゅうそう)」のこと。
弱アルカリ性の性質をもつため、肌に触れると皮脂や角質を溶かしてトロトロにしてくれる作用がある。
お肌を滑らかにしてくれることから「美人の湯」の別名もある炭酸水素塩泉だが、角質を剥がした分入浴後は乾燥しやすいので、保湿ケアはお忘れなく。
④塩化物泉 – 身体ポカポカいつまでも温かい泉質
温泉水1kg中の溶存物質が1000mg以上で、主成分が塩化物イオンのもの

<出典:Wikipedia(by 663highland)>
塩化物泉は、温かい海水のような成分をしている。
温泉に含まれる塩が身体の表面をコーティングすることにより、汗の蒸発を防いで熱を体内に閉じ込める効果がある。
そのため入浴後もずっとポカポカと湯冷めしにくく、通称「熱の湯」とも呼ばれている。
さむーい冬に入りたくなるような泉質である。
⑤含よう素泉 – うがい薬を薄めたような薬品っぽい泉質
温泉水1kg中によう化物イオンを1000mg以上含むもの
含よう素泉は、その名のとおり、よう素を多く含む温泉。
よう素とは、イソジン(うがい薬)やヨードチンキ(消毒薬)の独特な薬品っぽい匂いの元となっている成分であり、含よう素泉もそれと同様にあのケミカルな色と香りを放っている。
そして含よう素泉の療養効果は、飲用でこそ発揮される。
よう素の摂取は甲状腺ホルモンの分泌を促進するため、これがコレステロールの分解をスムーズにし、ひいては動脈硬化の予防につながるという。
ただしよう素の過剰摂取は逆に甲状腺機能の低下症を招くことが分かっているので、甲状腺疾患のある人が含よう素泉を飲むのは厳禁。
⑥硫酸塩泉 ‐ キズの痛みを和らげるありがたい泉質
温泉水1kg中の溶存物質が1000mg以上で、主成分が硫酸イオンのもの

硫酸塩泉は、やけどやキズによく効くことから「傷の湯」とも呼ばれる。
カルシウム・マグネシウムといった含有成分が鎮静作用をもつので、キズの痛みを和らげるほか、高血圧による脳卒中の予防にも有効とされている。
ほかにも、③炭酸水素塩泉と同様に肌の皮脂や角質を溶かす美肌効果を備えていたり、飲用することで胆汁の分泌を促して腸の働きを活発化させたりと、硫酸塩泉には何かと期待される効能が盛りだくさん。
ちょっと怖そうな名前とは裏腹に、とても身体に嬉しい泉質である。
⑦含鉄泉 – 女性にピッタリ、芯までじんわり温かい泉質
温泉水1kg中に鉄イオンを20mg以上含むもの
含鉄泉の多くは、くすんだ黄色や赤褐色をしており、錆びた金属のような独特な匂いを放っているので、かなり見た目に分かりやすい。
(こうした色や匂いは、温泉に含まれる鉄分が空気に触れて酸化することによる。)
熱を伝えやすい鉄を多く含むため、体の芯までポカポカと温まるのが含鉄泉のいいところ。
また飲用すれば、体に不足した鉄分をダイレクトにチャージすることもできる。
冷え性や貧血といった症状は特に女性に見られがちなので、含鉄泉は「婦人の湯」ともいわれ、女性の強い味方として人気を博している。
⑧硫黄泉 – 温泉の王道をゆく強烈な個性をもつ泉質
温泉水1kg中に総硫黄を2mg以上含むもの

<出典:wikipedia (by Mikkabie)>
硫黄泉の最大の特徴は、何といってもその匂いである。
よく「腐ったゆで卵」と形容される強烈な香りは、「ああ、温泉にやってきたんだなあ」という気分を一層高めてくれる。
お湯の色は濃密な美容液のような乳白色で、生活習慣病をはじめとして様々な体の不調に効果が期待できる、まさに温泉の王様のような泉質といえる。
ただし硫黄の成分はお肌にかなり刺激が強いので、雰囲気にひたるあまり長湯はしすぎないように。
⑨酸性泉 – 人を選ぶが殺菌力はピカイチな尖った泉質
温泉水1kg中に水素イオンを1mg以上含むもの
「酸性泉」という名前から連想できるように、肌がピリピリとしみるほど刺激の強い泉質。
高齢者や肌の弱い人は肌をやられてしまう恐れがあるものの、しかし殺菌消毒作用はとても高い。
皮膚の表面の細菌などを取り除いてくれるので、アトピーほか皮膚の症状には有効だとされている。
酸性泉からあがったら、しっかりシャワーで温泉成分を流してから出るのがよさそう。
⑩放射能泉 – 放射線パワーが細胞を刺激する希少な泉質
温泉水1kg中にラドンを3nCi(ナノキュリー)以上含むもの

ラドンは放射性元素というカテゴリーに入る物質のひとつで、放射能(放射線を放出する能力)をもっている。
放射線というと体に悪影響を及ぼす怖い存在というイメージが非常に強いけれども、放射能泉によって浴びる放射線というのは極めて微量で、それはむしろ健康に様々な良い影響をもたらすらしい。
適度な放射能が体中に作用して内臓機能などを整え、「万病に効く」といわれるくらいに、その効能は多岐にわたるという。
全国でも数えるほどしかない希少な放射能泉だが、ぜひとも一度は訪れてみたい優秀な泉質である。
この記事のおさらいクイズ
以上、10種類の泉質の特徴がなんとなくつかめたでしょうか。
最後にこの記事でみてきた知識をササっとおさらいしてみよう。
温泉に溶け込んだ炭酸ガスが多くの気泡を発生させることから、俗に「泡の湯」とも呼ばれる泉質は何でしょう?
正解:二酸化炭素泉
二酸化炭素泉では、皮膚についた気泡から二酸化炭素が吸収されることで、血行促進の効果がある。
2014年7月に「鉱泉分析法指針」が改定された際に温泉の新しい泉質として追加された、ヨード液のような独特のにおいや苦味が特徴の泉質は何でしょう?
正解:含よう素泉
よう素は薬品っぽい独特な匂いがする成分。含よう素泉を飲むと動脈硬化予防の効果が期待できる。
温泉の泉質のひとつ「放射能泉」の主成分として含まれている元素で、元素番号86、元素記号Rnで表されるものは何でしょう?
正解:ラドン
ラドンは放射線を放出する物質。放射能泉では、ラドンは気化して体内に吸い込まれ、息を吐くときに体外へ出ていく。その際に発する微量の放射線によって様々な効能があるとされる。
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