歌舞伎の代表作「勧進帳」のあらすじと魅力を簡単に解説

言葉・文学
ラビまる
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歌舞伎十八番のひとつ『勧進帳』には、魅力的なストーリーがあり、魅力的なキャラクターが揃っています。
まずは簡単なあらすじをおさえて、その世界観に触れてみましょう。


歌舞伎の演目の中で、『勧進帳』は特に有名で人気の高いもののひとつである。

『勧進帳』は、かの歴史上の人物「源義経(みなもとのよしつね)」と、その従者である「武蔵坊弁慶(むさしぼうべんけい)」とをモチーフにしている。

義経といえば、源平の戦いにおいて大きな武功をあげたものの、兄である頼朝の怒りをかったために命を狙われ、最後は自害に追い込まれるという、いわば悲劇のヒーローとして知られる。

義経は頼朝の手から逃れるため、山伏(やまぶし=山にこもって修行する僧侶のこと)のフリをしながら奥州(東北のあたり)を目指したというが、『勧進帳』はそんな逃避行の一幕にスポットを当てた演目である。

舞台は「安宅(あたか)の関」という関所(ボディチェックや税の徴収をするところ)。
今でいう石川県のあたりにあった。

さて、簡単にストーリーを追っていきましょう。

『勧進帳』のあらすじ

主な登場人物

  • 武蔵坊弁慶(むさしぼうべんけい)
    今回の主人公。ケンカの強いバキバキの大男である。もとは比叡山の坊さんだったが、ひょんなことから源義経に忠誠を誓い、従者として行動を共にしている。
  • 源義経(みなもとのよしつね)
    平氏との争いで大活躍した武将。鎌倉幕府初代将軍の源頼朝を兄にもつ。頼朝に命を狙われる身となってしまったため、山伏に変装しながら細々と逃げる日々を送る。
  • 冨樫左衛門(とがしさえもん)
    関所「安宅の関」の関守であり、切れ者の役人。幕府より「義経を捕えよ」との命令を受けており、義経っぽい風貌の男には敏感になっている。

ストーリー

義経が全国に指名手配されてしばらくたった頃。

関守の冨樫は、
「どうも義経たちは身元がバレないように山伏の格好をして逃げてるらしい」
といった噂を耳にしていた。
(山伏(やまぶし)とは、山の中で修業する僧のこと。)

ちょうど そこに向こうから、山伏姿の一行が関所へと歩いてくる。

まさにこの一行こそ、義経とその仲間たちであった。

義経は荷物持ちを装って後ろの方を歩き、先頭は従者の弁慶が行く。

関所にさしかかった弁慶は、

弁慶
弁慶

私たちは山の坊さんです。

東大寺の修復工事のために寄付金を集めてまわってるんですよ~

などと言って関所を通ろうとする。

しかしさすがに怪しすぎると思った冨樫は通行を拒み、こんなことを命じる。

富樫
富樫

本物の坊さんなら勧進帳をもってるだろ?

ちょっと読んでみろ。

勧進帳とは、人々に寄付を募るために、その目的や趣旨を記した書物のことである。

もちろん義経らの山伏姿はただのコスプレなので、勧進帳など持っているはずがない。

しかし弁慶は慌てることなく巻物を取り出し、

弁慶
弁慶

え~…「お釈迦様が明るく照らしていたこの世はもはや雲に隠れ、私たち人間は仏法のもとに悟りを開かねば生と死といった…」

といった感じで、スラスラとそれらしき内容を読み上げ始めた。
なんと適当な巻物を広げて、アドリブをかましているのである。

冨樫はこれにかなりビビりながら、

富樫
富樫

え、てかなんで山伏の人っていつも大きな杖もって歩いてるの?

富樫
富樫

あと、その頭に乗せてる帽子みたいなのってなんなの?

などと「山伏あるある」をネタに、弁慶を質問攻めにする。

しかし弁慶はこれにもそれっぽいことをスラスラと答えていくのである。

あまりに完璧な対応を前にした冨樫は、とうとう一行の通行許可を出すことになる。

ようやく弁慶たちが関所を通ろうとしたそのとき。

冨樫の部下のひとりが義経を指さし、
「あー!あの荷物持ちの人、なんか義経に似てません?」
と声を上げる。

絶体絶命のピンチである。

すると弁慶は、

弁慶
弁慶

せっかく疑いが晴れたのに、お前のせいでまた引き止められるだろ!

このバカタレ!

義経を罵倒しながら、持っていた杖でボコボコたたき始めた。

本来、従者が主君に手をあげるなど、とてもありえない暴挙である。

さらに弁慶は、

弁慶
弁慶

関守さん、なんならコイツこの場でヤっちゃいましょうか?

ぼくも腹立ってきたんで。

などと言い出すので、これには冨樫も観念して、

富樫
富樫

あーもういい、通れ通れ!

と見逃すのであった。

『勧進帳』(義経、弁慶と冨樫)

関所を越えて少し行ったところで、弁慶は涙をボロボロこぼしながら、義経への無礼を詫びる。

対して義経は優しく弁慶の手を取って、弁慶のすばらしい機転によって危機をしのぐことができたのだと、感謝を口にする。

そこへ、あとからなんと冨樫がやってきて、疑ったお詫びに酒をふるまいたいと申し出てきた。

実をいうと冨樫という男は、この一行が義経とその仲間であることはすでに察していたのである。

それでいながら、弁慶の見事な立ち振る舞いと、必死で主君を守ろうとするその忠誠に心を打たれ、自らが処罰されることも覚悟のうえで彼らをあえて見逃したのだ。

そして弁慶もまた、冨樫が恩情ゆえに見逃してくれたことを察していた。

弁慶は義経たちを先に逃がしたうえで、勧めに応じて酒を飲み、華麗な舞を踊る。

そして冨樫に敬意の目礼をし、主君の後を追っていくのだった…。

~Fin.~

『勧進帳』の魅力的なところ

以上、『勧進帳』のあらすじでした。

まず、この『勧進帳』の舞台設定が史実に基づいているという点は大きな魅力のひとつだと思う。

登場人物である義経、弁慶、冨樫はすべて歴史上実在した人物である。

歌舞伎として演じられるシーンはかなり短くまとめられているものの、その背景には義経や弁慶が追われる身となった経緯や心情といった要素が現実に存在していて、私たちは歴史を学ぶことでそうした要素に思いを馳せることができる。

勧進帳読み上げシーンでの緊迫感や弁慶が涙するシーンでの感動は、彼らのことを知れば知るほど、より一層味わい深く感じられるのかもしれない。

ちなみに舞台となった「安宅の関」もしっかり跡が残っているようだ。

また、なんといっても登場人物が全員カッコイイ!のである。

主君のピンチをその機転で見事乗り切ってみせた有能な男、弁慶

従者の弁慶に全信頼をおいて身をゆだねた人望の男、義経

そして、弁慶らのウソを見抜きつつもあえて騙されたフリをした情深き男、冨樫

どのキャラクターからも、人情味というか、粋(いき)なカッコよさを感じることができる。

なお、歌舞伎の『勧進帳』が初演を迎えたのは江戸時代のこと。

また『勧進帳』のいわば元ネタとなっている、同様のストーリーのの演目『安宅(あたか)』に関しては、その成立は室町時代にまで遡る。

義経と弁慶の物語が、500年以上も昔から(軍記物を含めるともっと昔から)今に至るまで愛され、語り継がれていると思うと、

「カッコイイ!の感覚って今も昔も変わらないのかなあ」

などと考えてしまうのである。


<10秒でわかる『勧進帳』>
□山伏のフリをして逃げている源義経たちは関所で疑われるが、弁慶がアドリブで勧進帳を読んだり、義経をボコボコにしたり、山伏アピールをしてなんとか乗り切った
□その姿に感動した関守の冨樫は、ウソを見抜いたもののあえて見逃した
⇒ 全員カッコイイ!

もっと深く知りたい!という方へ

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